2020.06.16

書評<明智光秀と細川ガラシャ>

初版2020/03  筑摩書房/選書

織田信長を討った武将、明智光秀の娘である細川ガラシャ。絶世の美女でもありながら、キリスト教信者であり、最期は非業の死を遂げた人物として、戦国時代の女性としては異例の知名度といってもいい人物である。本書は複数の著者が、海外の文献にもあたりながら、最新の研究による細川ガラシャの実像を明らかにしていく。

正直な話、呉座先生の明智光秀の実像の解説を目当てに本書を買ったのだが、クレインス,フレデリック先生をはじめとしたキリスト教関係の当時の書物を元にしたガラシャの解説などが存外に面白かった。美女で賢いという伝説は日本ではなくヨーロッパで広まり、逆上陸したこと。ガラシャが生きていた時代の、キリスト教を通したヨーロッパと日本の関係。ルネッサンスとプロテスタントの台頭により、力を失いつつあったカトリックの最後の砦の1つが日本だったことなど、意外な事実がどんどん飛び込んでくる。過大評価はいけないが、中世において、日本の存在はそれなりにヨーロッパでは知られていたということだけでも自分には目からウロコだった。たいへん興味深い歴史研究書である。

2020.06.15

書評<月の科学と人間の歴史―ラスコー洞窟、知的生命体の発見騒動から火星行きの基地化まで>

初版2020/02    築地書館/ハードカバー

人類はその歴史を絵や文字を使って最初に記録し始めたそのときから、月を描いてきた。人類最古の絵画といわれるラスゴーの洞窟の”落書き”がそれだ。以後、人類は月を眺め続け、その存在の謎を問い続けた。望遠鏡を使って観測し、地図を作成し、軌道を予測し、その成り立ちを研究した。そして、1969年、ついに人類は月に降り立つ。そうした人類と月を巡る歴史から、人と月の関係、そして将来までを記した、幅広い分野に渡って月を解説するのが本書である。

夜空に輝く月は、星々とは明確に区別され、人類は常にその存在に意味をもたせてきた。やがて神話の時代から、科学の時代に移り変わったのは、望遠鏡の発明からである。ガリレオに代表される望遠鏡の製作者、使い手たちは、長い年月をかけて月を研究した。月の観測の歴史は、人類の文明の発展の歴史でもある。

本書はそうした科学的事実から、ちまた伝えられる伝説としての月と人類の関係にも触れている。月と犯罪の関係、あるいは男女の関係は今も信じている人が多そうだが、月が人類に及ぼす”引力”は、実は見た目ほどではないのだ。月に人類が到達した後の時代であっても、どこか存在自体がミステリアスな月を、科学とロマンの両方から詳細に記した、魅力的な本だ。

2020.06.14

書評<ホット・ゾーン エボラ・ウイルス制圧に命を懸けた人々>

初版2020/051(原著1994)  早川書房/kindle版

高い感染率と致死率。あたかも人体を溶解させるかのような、凄惨な症状。史上まれに見る凶悪なウイルスであるエボラウイルス。アフリカ奥地に潜むエボラはときおりアフリカの都市部に現れ、人々を戦慄させていた。そのウイルスが今、医療実験用に輸入されたサルとともに、アメリカに上陸しようとしていた。エボラウイルスを巡る、戦慄のノンフィクション。

 

前半はエボラウイルスの悲惨極まえりない症例を精緻な筆致で記し、後半はそのエボラウイルスのアメリカ上陸を防ぐべく活動する、アメリカ陸軍伝染病医学研究所の戦いを描くノンフィクション。ノンフィクションとはいっても、登場人物がいつどこで感染するか分からないというホラー映画のような描写で、グイグイと読者を引き込む。後半は知られざる感染症対策部隊の戦いだ。ここでも通常の戦闘とはかけ離れた恐怖を描き、エボラウイルスの凶悪さが伝わる。原著は四半世紀前のベストセラーだが、新型コロナウイルス禍の今読むと、また別の感慨がある。それは感染対策の従事者たちの戦いだ。不便極まりない防護服を身にまとい、家族を巻き込むかも知れない”戦い”に出向く。そこにはミスもあれば、縄張り争いもある。原著を25年前に読んだときは、前半の”人体溶解”ともいえる症状に衝撃を受けて、後半の感染症拡大防止の部分はいまいち印象に残らなかったが、2020年の今は、本書の後半部分こそが著者の渾身のレポートだったと分かる。ただのホラーノベルの代替ではない、今読むべきノンフィクションである。

2020.06.13

A-4Q Completed

エアフィックス1/72A-4Qスカイホーク、完成しました。

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A-4スカイホークは1950年代にマクダネル・ダグラス社で開発された艦上攻撃機。名手エド・ハイネマンによるスカイホークは艦上ジェット機でありながら主翼折りたたみ機構を持たないコンパクトな機体ながら、大きな搭載量を持つ扱いやすい攻撃機として長く現役にありました。

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スカイホークは諸外国に採用されましたが、アルゼンチンでは正真正銘、空母艦載機として採用。A-4Bから大改修を受けたA-4Qとして配備されました。そしてフォークランド紛争に参加し、イギリスの空母機動艦隊に超低空攻撃を敢行。多大な損害を与えましたが、A-4Qは3機を喪失しました。

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エアフィックスの1/72A-4Qのキットは新生エアフィックスになってからの新製品。パチピタとはいきませんが、プラが柔らかく加工しやすいので、塗装まで含めてウィークエンドで完成出来る手軽さです。

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塗装は第3海軍戦闘攻撃飛行隊をチョイス。ガルグレー/イングニシアホワイトのスタンダード塗装+純正デカールのみ。エアフィックスのデカールは高品質でいいですね。

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今回はTwitterのお祭りである”フォークランド紛争祭”への参加のため製作しましたが、もう一つの目的はフジミ1/72A-4Eキットとの比較。もともと、A-4Eはエンジン換装、電子機器追加搭載のため、エアインティークやフェアリング追加でゴツくなっているタイプですが、ややふっくらめのデフォルメが目立ちますね。ライトウェイトファイターが重装備になっていく過程は、F-16ヴァイパーに引き継がれます。

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そして、同じくエアフィックスのシーハリアーGR.1との2ショット。スカイホークがまともに空戦に参加することはなかったそうですが、ハリアーにはスカイホークのキルマークが。フォークランド紛争は、多くの教訓を現代戦に与えた戦争でもありまsた。

2020.05.19

書評<アメリカン・セレブリティーズ>

初版2020/04    スモール出版/ソフトカバー

アメリカのセレブリティ、アーティストたちの動向は世界中から注目の的となる。アーティストは自らの生き方を楽曲に託し、ファンに訴えかけるとともに、様々なビジネスを展開し、リッチな生活を送る。また、アメリカのアーティストたちはフェミニズムや人種差別など、社会的・政治的問題に臆することなく向き合い、コメントするがゆえに、アメリカ社会の問題をそのまま映し出す鏡ともなる。本書は日本でもメジャーなセレブリティたちの活動を通して、アメリカのエンターテインメント業界や社会の動きを解説していく。

日本でも話題となる”#MeToo”や”文化の盗用”、”キャンセルカルチャー”という言葉はアメリカのセレブリティ界隈で生まれた言葉であり、アメリカ社会が何を問題にしたかはアーティストたちの生き方と発言そのものを知らないと理解しにくい。本書を読んでまず感じたのはこのことである。ネットのニュースでチラっと見ただけでは語れない、アメリカ社会の問題が潜んでいるのだ。本書はここ20年で差別や宗教、SNSに対して、アーティストたちがどのように向き合っているかが書かれているが、そこにはアメリカ社会に通底する問題と、新たに生まれる問題があることが理解出来る。庶民とは違う世界を生きるセレブリティたちだが、その移り変わりは見事にアメリカ社会の変化に連動している。非常に興味深い1冊である。

2020.05.18

書評<航空戦史 (航空戦から読み解く世界大戦史)>

初版2020/02    イカロス出版/ソフトカバー

 

例えば太平洋戦争末期の日本防空戦。B-29の本土空襲をまったく阻止できなかったとして、ボロクソに評価される日本の防空体制は本当に役立たずだったのか?例えば有名な”ノルマンディー上陸作戦”。以外にあまり注目されることのない、航空支援の貢献度はどんなものだったのか?いわゆる航空戦史の中でも、見落とされがちな戦いの実相を探っていく。

本書は著者が「歴史群像」誌で連載していた「航空戦史」をまとめたもの。本書では前半が日本陸軍航空隊の戦いと教訓、後半がヨーロッパ西部戦線の戦いと教訓にまとまられている。本書の特徴は前記したように、見逃されがちな航空戦を取りまとめていることだ。大雑把なイメージで語られがちな航空戦の中でも、意外な事実が潜んでいる。また、著者は技術的な事項にも精通しており、ゼロ戦を語るときに欠かせない伝説の一つ、”沈頭鋲”についても取り上げている。欧米が進んでいた面と、日本が進んでいた面と両方あることを取り上げた記事は、著者のフラットな視線ならではだ。雑誌連載をまとめたものなのでやや散文的だが、興味深い一冊である。

2020.05.17

書評<レッド・メタル作戦発動>

初版2020/04    早川書房/kindle版

 

台湾に対する中国の姿勢が日増しに強硬になっていく情勢の中、アメリカ海軍の内部では前代未聞のスキャンダルが発覚し、太平洋軍に混乱が乗じていた。アメリカ政府は中国をけん制するために戦力移動を開始した。だが、それはロシアがアフリカで失ったレアアース鉱山を取り戻すための陽動に過ぎなかった。ごく一部の情報専門家がその陰謀に気づくが、すでに作戦は動き出し、ロシア軍がポーランド国境を突破する。

ロシア軍のヨーロッパに対する限定的侵攻と、アフリカでの陸戦をシミュレートした、いわゆる軍事情報アクション。偵察衛星など情報獲得・伝達手段が発達しているものの、それに対する妨害手段も実戦を経験しつつあることを下敷きにした小説であり、ロシアによるポーランド奇襲、アフリカでの鉱山を巡る死闘など、非常にリアルに描かれている。GPSやネットをダウンさせ、地上戦力を極秘裏に移動させる手段さえみつければ、現代でも戦略的奇襲が可能なのだ。また、戦闘シーンでリアルなのはロシア陸軍の古強者である老将軍が「アメリカ陸軍はテロ対策にかまけ、野戦を忘れている」と評するところだ。いわゆる”テロとの戦い”に戦力を振ってきたアメリカ陸軍は野戦に関しては意外に実戦未経験であり、航空優勢がない状況では、例えばドローンを使った砲戦でアメリカ海兵隊は不利に陥る。また、世界各国の軍が重視する「統合作戦」を実行することが難しい状況をつくるべく、ロシアは戦力増強をはかっている。高度の射程距離を交差させた強固な対空戦力がそれだ。本書ではみんな大好き攻撃ヘリコプターはやられ役である。

本書はシミュレーション小説でありながら、現状の世界各国の軍隊の戦力組成について問題を投げかけている、意外に深い小説である。

2020.05.15

書評<弾丸が変える現代の戦い方: 進化する世界の歩兵装備と自衛隊個人装備の現在>

初版2020/04    誠文堂新光社/ソフトカバー

 

元陸自のメディックである、戦場での医療に詳しい元陸自隊員による、陸自の個人装備に関する提言。各種弾薬とライフルが精緻な関係にあるがゆえに、弾薬は国産でならねばならないこと、国際的な射撃大会に出場した各国の軍隊との比較により、日本の個人装備の基本である5.56㎜ライフル弾が時代遅れになりつつあることなどが解説され、最後に著者が陸自の個人装備の更新の提言と、メディックの重要性について提言する。

 

一部ミリオタの間で話題になった本。残念ながら、著者が本題のライフルの話に入る前の枕話として語っている空自戦闘機の選定の問題から間違った認識であり、その後も疑問が残る仮定のままでライフルと弾薬の話が続く。ベトナム戦争時に採用されたM-16ライフルの欠陥説の例もこれまで語られてきた話とずれている。また、今や5.56㎜弾が必殺距離とする300m以内での戦闘は危険すぎるため、もっと遠距離戦闘を可能とする7.62㎜NATO弾のライフルの使用を著者は提言するが、日本の野戦や都市戦闘で、300mを超える射程が必要なのか?日本はイラクのような砂漠ではないし、アフガンのような不毛な山岳地帯ではないのだ。かように著者が語る”世界の潮流”は”日本固有の地形ゆえの事情”が考慮されていないように感じられるのだ。もちろん、陸自の普通科の装備が貧弱なのは明らかで問題は多くある。だが、著者の提言は個人的には主流でないと思える。

2020.05.14

書評<壁の世界史-万里の長城からトランプの壁まで>

初版2020/03    中央公論新社/ハードカバー

 

人類が小規模な集団農業を始めて”コミュニティ”をつくった紀元前から、集団の内と外を隔てる壁は存在した。それは外敵から集団を守るためであり、またコミュニティの人間を外に逃亡させないためであった。人類のコミュニティが村から都市、国が発展し、今に至るまでも壁は築かれ続け、存在する。本書は万里の長城や中世パリの外壁、また東西ベルリンの壁や現代のパレスチナやアメリカとメキシコの国境地帯を著者が現地を訪ね、実際に観察し、壁の歴史を考察する。

 

著者はアメリカ人で、世界史といってもトランプ大統領が主な公約の1つとしたメキシコ国境の壁の構築をメインテーマとし、壁の歴史を探っていく。世界に設けられた壁は実際に人々を守るため、あるいは脱出を阻止するために本当に役に立ったのか?長い世界史の中で崩れ去った壁はどんなノスタルジーを感じさせるのか?そうしたことを検討したうえで、本題のメキシコ国境の壁建設問題に至る。もともと国境すらなく、国境ができた後に、トランプ大統領以前にもいくつも壁が実際にはつくられた土地に、彼が大きな国費を投じて壁を作る意味はあるのか?実際的な機能よりも、もはやオブジェともいえる壁の競争試作に、アメリカの企業がどのように関わっているのか。その視点は常にドライだ。著者は壁の建設を冷笑的に捉えているように自分には感じるが、時代は国家同士の分断は逆に未来に向かって深まっている。物理的な壁と心理的な壁、国境とはなにかを考えさせられる材料となる一冊である。

2020.05.13

GWH1/72F-14A Tomcat Completed

GWHグラマンF-14Aトムキャット、完成しました。

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グラマンF-14Aトムキャットは1960年代に開発が始まった艦上可変翼戦闘機。マクナマラ国防長官の肝いりだった空海軍共通戦闘機開発計画(のちのF-111)の挫折後、火器管制装置や超射程AAM、ターボファンエンジンなどの技術遺産を引き継いで開発されたF-14Aは、空母機動部隊を守る翼として、冷戦期を生き抜きました。

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日本でトムキャットの人気が不動のものになったのは「トップ・ガン」と「超時空要塞マクロス」の2つの作品のおかげでしょう。特に「トップ・ガン」は主人公たちが羽織っていたMA-1ジャンパーやサントラまで大ヒットし、今に至るまで影響を残します。

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GWHの1/72のキットは昨年の新商品。GWHのキットは精密で組み易いキットとして大感動したことがあるのですが、このF-14Aも健在。瞬着盛ってサンディングしたのは、主翼グローブの上下パーツの貼り合わせくらいでしょうか。後は塗装の厚みが邪魔になるくらいのクリアランス。そしてこのキットの特徴は主翼のスポイラーが展開できるところ。マスキング的にも難儀なところだし、見映えに迫力は出るしで、効果抜群です。本当は主翼の展開含めてタッチ・ダウンの状態を再現しようとも思ったのですが(なのでノズルは閉状態)、完成を優先しました。

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塗装は1974年、配備後すぐに実戦のクルーズに出たVF-1”WolfPack"を再現。なので機首ピトー管もなし。初めて作った1/72のキットがハセガワ旧版のVF-1塗装で、約40年近くぶりのリベンジです。

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ハセガワ、フジミ、ファインモールドその他、様々なキットがあるF-14Aですが、複雑な機体構成ゆえにパチピタのキットは今まで経験したことなかったのですが、このGWHのキットは高価なぶんだけのバリューがあるものです。ためらっている人は迷わずゲットです。

 

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