2022.01.07

書評<エジプトの空の下>

気鋭のイスラム学者である飯島陽女史が、エジプトに滞在していたときの数々のエピソードをまとめたエッセイ集。遠く日本からは見えない、イスラム教の国、エジプトでの生活の実際や隣国との関係などを綴っていく。

ヘタすればIS(イスラム国)のカリフ制さえ支持し、アラブ各国の理不尽を欧米のせいにしたがる従来の日本のイスラム学者とは一線を引き、コーランに基づいたイスラム教徒の実際を指摘する著者。イスラム教では明確に男性と区別、差別される女性であり、母親であり、もちろん外国人でもある著者のエジプトでの生活の苦労を本書は伝えている。エジプトはアフリカにおいては大国ではあるが、インフラその他で日本には遠く及ばず、また宗教の違いはいかんともし難い価値観の違いがある。それでも著者はその性格ゆえか、大胆にエジプトで生活していた。かの地での経験が、今の著者の信条に大きく影響しているのは間違いない。

本エッセイが貴重なのは、著者が滞在していた期間にいわゆる”アラブの春”が起こったことであろう。エジプトでの民主革命とはいかなるものであったか、そしてその反動である軍事クーデターの後のエジプトの実相を本書は伝える。イスラム教が国教の国での”民主革命”とは何か、そもそも民主主義とは何か?言論の自由とは何か?考えさせられる一冊である。

 

初版2021/11    晶文社/kindle版

2022.01.06

書評<ULTRAS ウルトラス 世界最凶のゴール裏ジャーニー>

全世界のサッカースタジアムのゴール裏席には”ウルトラス”と呼ばれる熱狂的なサポーターが陣取る。発煙筒を炊き、コレオで芸術的ともいえるメッセージを発する彼らは、もちろんただのサッカー好きではない。様々な政治信条を持ち、スタジアムの中だけではなく社会に対しても大きな影響力も持ち、それゆえ政府や警察から弾圧を受ける。本書はウルトラスの発祥といわれるウルグアイから旅をはじめ、モダンサッカーの中心地である西欧、政治色が色濃い東欧、サッカー界では新興国である東南アジアやアメリカなどを巡り、ウルトラスの今を取材していく。

ウルトラスの文化は、南米にはじまり、ワールドカップによる世界的な観客の交流を経て、全世界に広がった。自分はJリーグ発足当初の某チームサポーターだったが、明確にイタリアスタイルのコールが取り入れられていた。そして、Jリーグの現代の主流スタイルはアルゼンチンスタイルである。このように、アルゼンチンのスタイルが西欧に輸入され、イングランドのスタイルがドイツに輸入され、セリアA全盛期にはイタリアスタイルに染まるといった交流の歴史がある。本書はそうしたゴール裏の歴史に触れていく。

そして本書のメインテーマとなるのがウルトラスと犯罪、政治との関係だ。ウルトラスの勢力が大きくなるにつれて、組織化し、クラブとの関係も密となり、チケット販売などに関わるうち、不正や犯罪に染まっていく。また、スタジアムは暴力を発散する地となり、サポーター同士の小競り合いというよりも映画のような”ファイト・クラブ”の様相を呈している国さえある。そうして暴力に慣れ親しんだウルトラスは、民族紛争にも関わっていく。ユーゴスラビア内戦などは一般的にも有名だが、近年の”アラブの春”にもウルトラスが大きな役割を果たした。ウルトラスたちは、一般的な市民が経験していない、デモや暴力に対する警察の弾圧・取り締まりを経験しており、それを躱す(かわす)術を心得ているのだ。ウルトラスは民主革命に大きな役割を果たしていたのだ。本書はそうしたウルトラスの歴史や近年の変化を、密着取材を通してしることが出来る一冊である。

初版2021/11  カンゼン/kindle版

2022.01.05

書評<転生令嬢と数奇な人生を1 辺境の花嫁>

ファルクラム王国の中流貴族キルステン家の令嬢に転生したカレン。前世日本人女性で30代で死亡したという記憶がある以外、とくにチート能力などもない、いわゆるモブ転生。転機は16歳で訪れた。14歳のときに訳あって平民となり、学校にも通っていたカレンのもとに、貴族としての縁談が舞い込んだのだ。婿の候補は2人。王家に連なるイケメン皇子と、辺境のおじいちゃん伯爵。はたしてカレンの選択は?転生者の数奇な運命が転がり始める。

電子書籍の読み放題でいくつかの「悪役令嬢転生モノ」を読んだが、本作は早川書房からの書籍化だけあって、珠玉の出来である。前記したように、主人公はいわゆるチート能力を持たない。これは男性向けの「なろう系」との顕著な違いで、”知識も分別もついたアラサー女性”のまま美少女に転生する著作は他にも多い。中世貴族の女性と比較して、”大人としての分別”こそが現代に生きる女性の最大のアドバンテージということだろう。魔法ではなく、知的好奇心、人としての奔放さ、行動力を武器に、魑魅魍魎が跋扈する貴族社会に立ち向かう。まさに数奇な人生物語である。ライトノベルを食わず嫌いの方にもお薦め。

初版2021/01    早川書房/kindle版

2022.01.04

書評<プロジェクト・ヘイル・メアリー>

ほんのわずかな時間で、太陽からの光が減少しつつあることが観測される。それは未知の物質に太陽が”感染”し、太陽からのエネルギーを”吸収”しているからだと判明。人類はその謎を解明し、破局を回避するために途方もない計画に着手する。それは太陽系の周辺で唯一、光が減退していない恒星系に人類を送り込み、謎を解明することだった。そして送り込まれた科学者は、その恒星系でファースト・コンタクトを果たす。果たして、彼は使命をまっとうできるのか?

主人公は「生命の発生に必ずしも水は必要ではない」という異端の説を唱えて科学界を追われ、教師をしている元科学者。物語は彼が宇宙船の中で目覚め、徐々にそこに至る経緯を思い出すところから始まる。彼は地球生命の危機に際し、未知の物質を分析するために強制的に召集されたのだ。結果として自分が唱えていた持論が覆されるところから、物語はジェットコースターのように展開する。カタストロフィを回避するSFかと思えば、行き先の恒星系で異星人と出会うファーストコンタクト系SFとなり、そこからは著者の過去作にも似るエンジニア系SFとなっていく。さまざまな要素がいっぱい詰まった本書、自分としては「科学者とエンジニアの友情SF」と捉える。いっけん不可能なことを可能にするにはどうしたらいいか?懸命に解決策を考え、手持ちの技術で装置を開発し、危機を回避する。それを生命としての形態や言語、持っているテクノロジーも違う異星人が実現していくのである。これほど痛快なことはない。2021年度ナンバーワンSFだ。 

初版2021/12   早川書房/kindle版

2021.12.12

MIRAGE2000C(GREEK AIR FOECE) Completed

モデルズヴィート1/72ダッソー・ミラージュ2000C、完成しました。

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ミラージュ2000は、ミラージュⅢのヒットで一躍、超音速戦闘機メーカーの一員に躍り出たダッソー社が、ミラージュF1を経て、デルタ翼に回帰してフランス空軍の主力戦闘機として送り出しました。一見、ミラージュⅢの焼き直し感が強いのですが、ブレンディッド・ウイング・ボディ、FBWなど最新技術が導入され、非力なエンジンを装備しながら、高機動性能を誇ります。

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モデルズヴィートのキットは2021年発売の最新キット。小型戦闘機の部類に入る1/72のキットが¥6000越えというのは、少し購入を躊躇させますが、エッチングパーツやキャノピー・タイヤのマスキングシート付属、キャノピーも開閉のパーツが選択出来て武装もフルに揃ってると考えると妥当なのかも。パーツはシャープな全面スジ彫りで、主翼の上下面パーツにややスキマが出来る以外は苦労せずに組み立てが出来ます。

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塗装はギリシャ空軍仕様をチョイス。インターミディエイトブルーとクレオスのC308ライトグレーの組み合わせを塗装図の指示どおり吹きましたが、やや暗すぎたかも。ギリシャ、日差しが強そうなので退色が早いうえに写真が明るく映るとみえるので、このブログ見て作りたくなった方は明るめに調色するのをおススメします。

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特筆すべきはモデルズヴィートのデカール。お湯に漬けて2秒で台紙から剥がれるし、やや艶消しの塗面に密着するし、デカール軟化剤にもそこそこ強いと、高い品質。某国内メーカーに見習って欲しい。

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ともかく、アメリカのメーカーとは違う、美しい機体が最新テイストで味わえるこのキット、たいへんおススメです。みんなで買って作って、シリーズ化およびラファールの開発に繋げましょう!

2021.11.28

書評<同志少女よ、敵を撃て>

ナチスドイツのソ連侵攻により、小さな農村に住む少女セラフィマの日常は奪われた。両親とともに虐殺される運命にあったセラフィマを救ったのは、ベテランスナイパーのイリーナだった。狩猟を日常にしていたセラフィマはイリーナに拾われ、彼女が教師を務める”女性狙撃手学校”の生徒になる。ソ連的な優等生、滅びつつあるコサックの末裔、NKVDの内部調査員など、様々な背景を持つ少女たちがスナイパーとして育ち、やがて地獄に放り込まれることとなる。

新人にして著名な賞を獲得した話題作。正直な話、戦記物やスナイパーの自伝などを読み漁っているミリオタには”どこかで読んだ話」”が多いのだが、全体として貫かれる「なぜ戦うのか」という普遍的なテーマと、隊員たちが互いに支えあう場面がこの物語を特別なものとしている。さらに、独ソ戦の最終局面の戦闘に参加する最後の120ページでのドイツのベテランスナイパーとの駆け引きは別格だ。知恵と、スナイパーが持つ独特”自分の世界の物語”を互いに読みあい、どちらがどのタイミングでトリガーを引くのか?生き残るためには一般兵士をどう騙すか?息をつかせない物語は、ミステリーとしても一級品である。

初版2020/11 早川書房/kindle版

2021.11.27

書評<ジェット旅客機進化論 ~Jet Airliner Technical Analysis>

第2次世界大戦の終戦を前にして、連合国の各航空機メーカーは戦時で急速に拡大した航空機開発・生産能力を民間市場に振り分けるべく、旅客機の開発を企画した。折しもパワープラントはジェットエンジンへ時代は向かっており、まずはイギリスのコメットが進空。そこから熾烈な開発競争と機体の高速化、大型化が進んでいく。本書はジェット時代のエアライナーを機種別に詳細に紹介、エアライナーがどのように進化してきたかを紹介していく。

本書は「月刊エアライン」の連載をまとめたもので、アメリカ、欧州、ソ連の旅客機を中心に1機種ずつ時代を追って紹介しつつ、旅客機がどのようにして現在の姿に”収斂”していくかをまとめて読める”クロニクル”というに相応しい本である。エンジンは黎明期のターボジェットから、高バイパス比のターボファンへ。高速化は超音速まで進むものの、効率が悪く航空市場は大量輸送を選ぶ。そしてエンジンや機体を構成する素材、そしてハイテク化により、双発で太平洋を横断出来る時代になった。その間には市場のニッチを埋めるべく、様々なアイデアを含んだ機体が世に送られたが、いまや大型旅客機メーカーはエアバスとボーイングの2社対決になっている。軍用機と違い、需要そのものも探っていかなければならない旅客機開発の困難さがよく分かる1冊である。

初版2021/09    イカロス出版/ソフトカバー

2021.10.29

書評<寝てもサメても 深層サメ学>

魚類の中でも、サメは古代からの特徴を残し、また多様な生態を持つ種としてと知られている。一般のイメージとしては「ジョーズ」ことホオジロザメが有名だが、その他にも興味深い生態を持つサメが多くいる。本書は沖縄のジンベイザメの長期飼育で知られる美ら島水族館に所属する著者を中心に、サメについての興味深い生態がまとめられた、一歩深い「サメの入門書」である。

ホームセンターにはサメのぬいぐるみが溢れ、サメ映画が続々と製作される現代だが、我々はサメのことをあまり知らない。本書は深海から浅海、大洋まで生息域が幅広いサメの興味深い生態を解き明かしていく。なかでも興味深いのは、その子孫の残し方だろう。同じ種の中で卵生と胎生のサメがいて、なおかつ胎生の中では哺乳類の胎盤に近い組織を持つもの、母乳に近い成分を子に提供するもの、幾匹かが母親のお腹の中で育ち、”共食い”をするもの。古代の生物の特徴も残すサメにあって、この多様性をどう解釈すればいいのか?生物としてのサメの奥深さを教えてくれる一冊である。

 

初版2021/05  産業編集センター/ソフトカバー

2021.10.28

F-5F Completed

ドリームモデル1/72ノースロップF-5FタイガーⅡ、完成しました。

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ノースロップF-5シリーズはノースロップ社が輸出向けの軽量戦闘機で、整備性も操縦性も良く、世界の中小国の空軍で使用されました。F輸出向けの簡易な戦闘機であるF-5シリーズはベトナム戦争時に少数が正式採用されただけでしたが、その後、Mig-21に似た飛行特性が飛行訓練の敵役として注目されることとなり、いわゆるアグレッサーとしてアメリカ空海軍に採用されることとなります。

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ドリームモデルの1/72F-5Fのキットは2020年発売の新金型キット。いわゆる中華系のディテールアップパーツ中心のメーカーが発売したインジェクションキットで、良好なプロポーション、全面スジ彫り、背部ににパーティングラインがこないパーツ割など、今どきのエアクラフトモデルです。比較的古いキットが中心の1/72F-5シリーズにあって、新金型キットの発売はありがたいのですが、問題は価格で、標準で¥6,800前後。胴体下部にパーツが主翼とスタビレーターと一体だったりと作り易いのですが、超絶ディテールというわけでもないので、さすがに複数買いは迷うとこです。

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塗装はアメリカ海軍のVFC-111”Sundowners”を再現。グレーの迷彩はクレオスC338、C337、C317を使用。デカールは薄く密着しやすいものです。武装はアグレッサー機らしく、イナートのサイドワインダーとACMIポッドを左右の翼端パイロンに装備させています。

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伝統ある塗装を引き継ぐVFC-111の塗装が大好きで、今回はファントムとトムキャットと並べるために製作したようなもの。F-8Eのキットとデカールも確保してあるので、なるべく早く作りたいものです。

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2021.10.09

F-16C Block40(Turkish Air Force) Comleted

久しぶりの1/72航空機キット完成しました。ドイツレベル1/72F-16A MLU改F-16C(トルコ空軍仕様)です。

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トルコはアジアとヨーロッパの境目に位置し、なおかつ中東に国境を接しており、地政学上、紛争が絶えない地域であります。そうしたことから、トルコ空軍は国家の規模に比して強力な戦力を維持しており、その中でアメリカから導入されたF-16Cは主戦力となる戦闘機です。

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レベルの1/72F-16A MLUは1980年代に導入されたベネルクス三国を中心に導入されたF-16Aのヴァージョンアップ版を再現しているキット。各メーカーからキット化されているF-16ですが、意外にドラッグシュートが収納された長い垂直尾翼基部のパーツが入ったキットは少なく、トルコ空軍のF-16を製作するにあたって、そこを選択ポイントにしました。しかし、F110ターボファンエンジンのノズルをV1MODELSさんの三菱F-2用アフターパーツに交換することから始まり、エアインティーク、垂直尾翼や主翼のアンテナやフェアリングと、改修箇所が出てくる出てくる。もったいないけど、垂直尾翼だけタミヤのキットあたりに合わせた方が時間はかからなかったかも。レベルのキット自体は素晴らしいものです、念のため。

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塗装はF-16のスタンダードであるゴーストグレーのカウンターシェイド。クレオスの特色C305とC306をビン生で吹いています。デカールはトルコのbibibiデカールを使用。薄くて良質なものですが、それだけにデカール軟化剤の使用には注意が必要です。トルコ空軍はクルド人自治区での爆撃任務や、ライバルのギリシャ空軍とガチで格闘空中戦したりと実戦経験豊富?なので、ウェザリングとフィルタリングはキツめに入れています。

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トルコ空軍はイスラム国ですがイスラエル企業とのつながりも深く、大型AGMのポップアイもイスラエルから導入されており、それを再現するためにスカンクモデルのウェポンセットからパーツを持ってきています。

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手をケガしたり、夏バテしてお盆の長期休暇もダラダラするだけだったりと、本来F-16祭りに参加するはずだったのに完成が10月までずれ込みました。ここからはダッシュをかけますよ。

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