2019.12.11

書評<奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語>

 

本書で紹介する奇書とは、数“奇”な運命をたどった“書”物である。”魔女狩り”という、当時の価値観では当たり前のように行われた際に参考にされ、ベストセラーになった本。多くの少年や科学者の運命を変え、人類を月にまで送り出すきっかけとなった著作。その著作により、異端審問にかけられたガリレオは「それでも地球は回っている」と本当に言ったのか?様々な著作の運命を探っていく。

本書はYoutubeで公開されている書評を書籍化したという、今風の著作だ。なので豊富な図表を交え、発売当時の書籍の雰囲気をうまく伝えながら、柔らかい文体で内容を解説していく。当時の人びとが本を読むことによって、現代では考えられない行動を促されたのはなぜなのか?当時の風俗や疫病、宗教などを分析しており、価値観の変化が分かりやすい。今現在も、本書でいうところの”奇書”が生み出されているんだろうなあ、と思わずにはいられない本である。

初版2019/08 KADOKAWA/kindle版

2019.12.10

書評<エイリアン――科学者たちが語る地球外生命>

地球外生命体の研究、探査は人々が思った以上に進展している。天文学の分野では地球によく似た惑星の発見が相次ぎ、太陽系内においてさえ、生命誕生の可能性が取りざたされる発見があった。本書は様々な分野の科学者が地球外生命体が存在する可能性を多角的な視点から探求していく。

本書は、20人の科学者が広い視点で地球外生命体の存在の可能性を論じた本である。その視点は映画やSFに登場するような知的生命体の存在や人類との”ファーストコンタクト”を果たすことが出来るかどうかといったものから、私たちの暮らす銀河に生命体が存在する確率、その生命体のセントラルドグマがなんであるかなど、様々な視点があって面白い。

「宇宙人がいるかいないか」の結論が異なるなど、偏った視点でないのも本書の魅力だ。宇宙は広大なのに、我々哺乳類のような複雑な生命体が生まれる確率は極小であること、まして知的生命体との出会いはおそらくない、という正直な結論もある。天文学から生物学まで、下敷きが多ければ多いほど、楽しめる本である。

 

初版/2019/09    紀伊國屋書店/Kindle版

2019.12.09

書評<アラスカ探検記>

氷河と森林が土地を覆い隠す、過酷な自然環境を残す地、アラスカ。100年前、鉄道王が当時の一流科学者と自然保護活動家をとともに海岸調査のため旅した海路を、アメリカの作家が同じように旅をする旅行記。100年前に彼らが何を目撃したのを記しながら、その100年後に著者が何を見てたかを綴っていく。

厳しい自然がいまだ人を阻むアラスカ。だが、その地がアメリカ合衆国のものになった後、その海岸には黄金、豊富な漁業資源、近年では原油を求め、人々が移住していた。もともとその地で暮らしていた先住民族の暮らしは大きく変わるどころか、存続すら危うい状態になった。これがわずか100年前の出来事である。そうした開拓時代や第2次大戦を経て、アラスカは観光と石油産出地、そして地球温暖化を象徴する土地となっている。石油の価格下落とともに、衰退に向かう街。ここ100年で大幅に縮小した氷河。著者は100年前の旅と絡め、アラスカの自然と社会、そしてその変化を淡々と記していく。クルーズ船で土地に降り立ち、3時間ほどお土産店の周辺を巡るだけでは分からない、アラスカという土地のリアルな歴史とその姿。ことさら環境破壊や現地住民の貧困を訴えるのではない、リアルな体験が貴重なできる紀行本だ。

 

初版2019/08   青土社/Kingle版

2019.12.07

書評<イスラム2.0: SNSが変えた1400年の宗教観>

西欧諸国がアルカイダやISといったテロ組織に対して”終わりなき戦争”を続けても、あいかわらずイスラム教が関連したテロが減らない昨今。テロの根本的な原因はどこにあるのか?それは貧困や教育でなく、イスラム教徒がインターネット時代になり、経典であるコーランに直接触れる機会が飛躍的に増加したからだと著者は説く。それが表題の「イスラム2.0」の世界である。本書は西洋的価値観に基づいた”テロとの戦い”の間違いを解説し、移民時代を迎えようとしている日本人に対し、イスラム教徒との共存の危険さを警告する。

イスラム教は根本的に神に従う宗教である。それは西洋で構築された民主主義、法治を基準にした国民国家で一般的な価値観とは相容れない、と著者は説く。それならばなぜ、この世界を構築する国家群の枠組みに今までイスラム教が収まっていたのか?それは経典であるコーランを一般教徒に説法するイスラム法学者たちが国家の権力者たちと”癒着”していたからだ。ここまでが著者のいう「イスラム1.0」である。前述のように、インターネットはイスラム世界をも変革した。ムスリムたちはコーランの教えに直接触れ、より”原理主義的”にイスラム教を解釈し、行動を始めているのである。それが今現在のヨーロッパや東南アジアで起きているリベラルとイスラムの摩擦の正体である。近代民主主義国家の「信教の自由」は、基本的人権の下に宗教をおいているからこその”自由”であり、神に従うイスラム教徒とは価値観が根本的に異なるのだ。本書にあるこうした解説は、イスラム教徒たちが本来の姿に戻りつつある現在において、非常に説得力がある。ヨーロッパのリベラルエリートの政治指導者たちがいかに「寛容であれ」と演説しようと、摩擦を経験した国民に響かないのは当然であろう。

翻って日本。著者は日本がすでにテロの”温床”になっていることを指摘する。平和ゆえの警戒感の薄さ、世界の状況への無頓着さを我々は自覚しなければなるまい。まして、日本人は自国民に対してさえ無神経だ。それが、イスラム教徒と本格的に対峙するとどうなるか?想像もつかない事件が起こるのも、そう遠くないのかも知れない。そう感じさせる一冊である。

 

初版2019/11    河出書房新社/河出新書

2019.11.20

書評<異修羅I 新魔王戦争>

「本物の魔王」が世界を滅ぼすかの勢いで破壊と殺戮を繰り広げた後の世界。人間の都市で唯一生き残った「黄都」に対し、「魔王自称者」が衛星都市にて反乱を起こす。黄都と新興国の対立と戦闘は、魔王を倒すべく集められた「勇者候補」にエントリーするための試験でもあった。彼方の地から流れ着いた客人、獣人、ホムンクルスなど超常の力を持ったものたちが、破滅的な戦闘を繰り返す物語。

 

いわゆる”なろう系”のライトノベルだが、とにかく文章がカッコイイのである。ライトなギャグや異性関係など余計な伏線を盛り込まず、異能者たちの戦闘の描写にひたすら徹する。いわゆる二つ名を含めた名乗り。文章の切り方。破滅的な戦いを前にした戦士たちの会話。痺れるとしかいいようがない。この調子で続編を続けてほしい。

 

初版2019/09    KADOKAWA/kindle版

2019.11.19

書評<魔王 奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男>

アメリカの数ある違法薬物問題の中でも大きな問題になっているのが、強力な鎮痛剤の違法販売だ。本来は医師の処方箋が必要な薬物を手軽にネット通販できる仕組みを作り上げたのは、南アフリカ出身の天才的プログラミングエンジニアだった。その違法なネット通販で莫大な富を手に入れた彼は、国際的なネットワークを作り上げ、自身はフィリピンに身を置き、イスラエルではコールセンター、エチオピアでは違法な鉱物取引、ソマリアではマグロ漁とその加工と、違法と合法の間を行き来するビジネスを次々と拡大させる。やがて彼は北朝鮮との覚醒剤取引、ウクライナとの武器取引など、真に”マフィア的”な取引に手を出すようになる。本書は違法ビジネスの帝国を築き上げた、一人の男のノンフィクションである。

 

本書は犯罪者の半生を描いたノンフィクションであり、また彼が拡大させ続けたビジネスの物語でもある。世界でもっとも普及しているコンピュータセキュリティプログラムの開発者の一人であり、まっとうな人生を歩めたはずの男が、なぜ犯罪に堕ちていったのか。そのビジネスの拡大の物語は、一種のサクセスストーリーのはずだった。世界中にコールセンターを設置し、ネットで薬品の処方・販売・配達といったシステムの立ち上げ、優秀な人物を雇用していく。それはITビジネスの成功例ともいえるものだ。だが、そこで得た金が彼をさらに狂わせていく。荒唐無稽ともいえるビジネスの拡大に取り憑かれた男の行動は、映画でよく見る麻薬王とは違う。どれだけ暴力に頼り、奇矯な行動を取ろうとも、本書の主人公は自分などにはどうしてもビジネスマンに見えるのだ。本書はありがちな、”終わりない麻薬と暴力の物語”ではない。グローバルなネットワーク時代の、現代的で新たな時代の犯罪王の物語である。

初版2019/10  早川書房/kindle版

2019.11.18

書評<大英自然史博物館 珍鳥標本盗難事件: なぜ美しい羽は狙われたのか>

今は大英自然史博物館の別館となっている、ロスチャイルド家がヴィクトリア時代に創設した博物館から、約300羽の鳥の標本が消えた。現在では絶滅危惧種で捕獲が禁止されている南米・北米の鮮やかな羽を持った鳥類の見本は、なぜ盗難にあったのか?そこにはフライフィッシングで使用される毛針という独特の文化と、少数の愛好家を繋げたネットの影響があった。本書は事件に関わった人物たちのインタビューやビクトリア時代の鳥獣類の収集の歴史を絡め、前例のない盗難の真相にせまっていく。

 

フライフィッシングに使う毛針は一種の芸術品であり、製作者は18世紀よりカタログ化された見本の美しさにせまるため、製作のテクニックを磨く。それだけでも知られざるマニアの世界だが、毛針に使う鳥類の羽が絶滅危惧種であり、ネットオークションで裏取引されているとあっては、ますますマイナーな世界である。それだけに、毛針製作にハマった者たちは、身内からの称賛を得るためにあらゆる手段を駆使するようになり、それが盗難に結びつく。本書は興味深いのは、そうしたマニアのいわば”ありがちな閉じた世界”が、進化論を形作った大航海時代の歴史と、貴重な鳥類の保護といった世界的な問題が結びついている点だ。マニアのネットワークは世界中に及び、マニアたちの”罪の意識”も人それぞれだ。本書は違法取引を追う捜査のノンフィクションであり、マニアたちの人間的な実像を明らかにする貴重なノンフィクションで、非常に興味深い。

自分もマニアの端くれであり、貴重な探しものも(他人には無価値であっても)たくさんある。本書で明らかにされるマニアのせまいネットワークは心当たりがあり、その心境も分からないでもない。そうした収集欲、自己肯定欲を解き放つとどうなるか?教訓にしなければいけない物語である。

初版2019/08    化学同人

2019.11.17

海自補給艦<ましゅう>一般公開に行ってきた

北九州港開港130周年記念行事の1つして実施された海自補給艦<ましゅう>の一般公開に行ってきた。

Dsc_7421

<ましゅう>は海自所属の艦船で最大規模となる補給艦。貨物や燃料・水の搭載量は最大化したい。しかし、護衛艦隊についていく速力は確保したいとの要求から、大きなシアがついた、特徴的な外観を持ちます。艦内は効率を高めるための倉庫、広い医療施設など、興味深い装備が施されています。

Dsc_7447

Dsc_7438

Dsc_6803

Dsc_7360

Dsc_6833

Dsc_6791

Dsc_6787

Dsc_7326

装備品も補給艦には必須のプローブ&プローブキャッチャーはじめ、工夫を凝らした展示で、興味深いものばかりでした。

隊員の皆さん、お疲れ様でした。

2019.11.16

Mig-25RBT Completed

ICM1/72Mig-25RBT、完成しました。

Dsc_7267

Mig-25はミコヤン設計局が1960年代に開発した要撃戦闘機。アメリカのXB-70を仮想敵として、XB-70と同じくマッハ3の速力を発揮するべく設計されました。当時としては先進的な外見から、アメリカ空軍はかなりの高性能を予測していましたが、「ベレンコ中尉亡命事件」にて、アルミではなく鉄を多用した機体構造、限定的な速度域で高性能を発揮するジェットエンジンなど正確な情報がもたらされました。Mig-25RBTはその速力を生かした写真偵察/電子偵察機であり、機首にSARレーダーや各種カメラなど搭載しています。

Dsc_7236

ICMのキットは2018年発売の新金型キット。シャープなスジ彫りとパーツの現代的なキットです。眼鏡型のフレーム2個の中にエンジンのダクトを組み込み、機首や胴体を張り付けていく、いわばフレーム構造のプラモデル。パチピタとはいきませんが、特徴的なパーツ割を慎重にすり合わせればシャープなMig-25が出来上がります。

Dsc_7246

塗装はグレーをクレオスC11明灰色を暗めに調色して吹き付け。後部エンジン周辺はアイアンを基本にブラックやクリアーオレンジを混色した各種シルバーを吹き分けてメリハリをつけています。

Dsc_7258

エナメルのブラックでスミ入れ兼フィルタリングして、エナメルのウェザリング塗料でオイル漏れなど書き入れて仕上げ。過酷な使用環境にある旧ソ連機にしてはやや物足りない気もしますが、まあ良しとしましょう。

Dsc_7241

ICMもキットは初体験でしたが、非常にレベルが高く、短時間で完成できました。ややプラが柔らかくパーツが脆いため、スタビレーターやピトー管にピアノ線を仕込むだけでこの完成度は特筆すべきもの。このクオリティで旧ソ連機シリーズをラインナップしてほしいものです。

2019.11.03

書評<書物の破壊の世界史――シュメールの粘土板からデジタル時代まで>

人類が文字を発明し、あらゆる記録を残し始めたのは、紀元前のシュメール時代だったと思われる。粘土板から始まった書物はパピルスの時代を経て、紙の発明により、本の時代になった。そしてそれら書物の歴史は同時に、破壊の歴史であった。権力者は往々にして前時代を消し去りたいものであり、王が変わるたびに書物は破壊された。また人類の歴史は戦争の歴史であり、侵略した土地・宗教・民族・国家の記録である書物はしばしば焼かれる運命にあった。もちろん自然災害や火災は人類の歴史の始まりから避けることの出来ないものであり、しばしば貴重な書物が失われている。本書はそうした書物の破壊の歴史を丹念に辿った歴史書である。

本書を読むと、「逆に現在に残っている古い書物がいかに貴重であるか」をとにかく実感する。それくらい、古代から書物は失われてきた。自然災害や紙の劣化は仕方がないのかも知れない。しかし、国家や宗教、民族の侵略・戦争・略奪によって失われる書物の多さには驚くばかりであり、それは書物の貴重さが充分に認識されてきた近代・現代でも同じことだ。2003年のイラク戦争でのバクダッドの書物の略奪・焼却は目を覆うばかりであった。現在はデジタルの時代で、人類史上稀に見る”コピーの時代”であるが、現在主流のデジタルアーカイブを次世代にどう繋げていくかは考えていくべきであろう。本書に記述される歴史を知れば知るほど、深刻な問題であると認識できる。

権力者が書物を焼くのは前時代の否定が主な理由だが、”多様な価値観を認めよう”と言いつつ、ポリティカルコレクトレスが声高に叫ばれる現代は、緩やかに書物が焼かれている時代なのかも知れない。表現の自由の行き先と、書物の破壊の行く先は複雑に絡み合う。単に政治的な信条の摩擦以上のことが今後起きるのかどうか、見守っていく必要があるだろう。

初版2019/03 紀伊國屋書店/Kindle版

«書評<家畜化という進化ー人間はいかに動物を変えたか>

My Photo
December 2019
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

Twitter


無料ブログはココログ