書評<コンコルド・プロジェクト>
コンコルド・プロジェクト Concorde The Inside Story
ブライアン・トラブショー Brian Trubshaw
2003年は航空100周年、すなわちライト兄弟が動力飛行に成功してから100年のメモリアル・イヤーである。そのメモリアル・イヤーである今年、夢の旅客機である超音速旅客機(SST)コンコルドが運行を停止した。本書はそのコンコルドの開発と試験、そして運用の歴史を辿ったノンフィクションである。
コンコルドは、航空機がスピードを追い求めていた1960年代初期に、フランスとイギリスの共同開発プロジェクトとして産声を上げた。超音速で巡航し、なおかつ安全な旅客運送を実現するためには、高い技術的ハードルがいくつも存在した。それを突破するには多大な資金がいる。ヨーロッパの航空大国であるイギリスとフランスの航空産業は、この頃すでにアメリカのそれに押され始めており、単独ではとてもSSTは開発できない。イギリスとフランスは国際共同開発プロジェクトを選んだ。それは文化や言語が違う国が協力し技術的開発を行うことであり、当然のことながら多大な困難が伴う。著者はコンコルドのイギリス側テスト・パイロットとしてプロジェクトに参加し、その立場から本書をまとめている。国際共同開発なる理想的な響きが、逆にいかに困難さを示すかが克明に描かれている。
コンコルドの不幸は、開発中に旅客機に対する要求が速度よりも、経済効率や環境問題に変化してきたことである。ソニック・ブームを起こしながら高空をマッハ2で飛行して、アフターバーナーを炊いて離陸するコンコルドはおせじにも環境にやさしいとはいえない。そのおかげで大金をかけて開発、初飛行した後も全世界で延々と試験が続き、その間にどんどん発注がキャンセルされ、結局は量産機が20機に満たない結果にプロジェクトは終わったのである。
本書にはSSTの未来も示されているが、世界の航空業界が不況とテロに喘ぐ今、その将来は暗い。航空業界に、SSTなみの革命は将来、起きるのだろうか。
ところで、本書の欠点は技術的な用語の解説・説明がなさすぎることである。例えば「コンプレッサー・サージング」と文章中に出てくるが、その意味が解説なしに分かる人は少ないと思う。「国際共同開発の困難さ」という一般的な読者にも訴えるテーマなのに、専門用語のせいでこの本が読まれないのはあまりにもったいない。
初版/2001/07 原書房/ハードカバー
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