書評<「おたく」の精神史 1980年代論>
「おたく」の精神史 1980年代論
大塚 英志
1980年代初頭よりロリコンマンガ雑誌の編集者を始めるところから、一貫して「おたく」文化の周辺の現場にいた著者が、「おたく」文化と1980年代がどんな関係を持ち、現在につながるかを論評しているのが本書である。1980年代当初、サブカルチャーを土台とする人たちの中から”新人類”が生まれ、”新人類”が自らの立ち位置を確認するために「おたく」が生まれた。消費社会の発展とともに「おたく」文化は多様化し、また社会的な事件と関わりながら現在に至っている。著者はそれを第三者として俯瞰し、時代を分析するのではなく、あくまで自分の仕事を通して関わった人物、あるいは事件からの分析を試みている。それゆえ、ロリコンまんが、女性エロまんが家、フェミニズム、宮崎勤、オウムと題材は散文的だが、それらがサブカルチャーの転換点の要因となってきたのも確かであり、時代の変遷を読み取ることは充分可能だ。他の「おたく」文化を扱った著作と本書が異なるのは、日本社会の変化との関係の分析を試みている点だろう。80年代の消費社会の発展は”無階級革命”のはずだったという点は、本格的に消費社会に参加したのが既に80年代末だった自分などにとっては、新鮮な論評だった。
最後に一つ。著者との関係から思想家などもたびたび登場し、知らない固有名詞も多かったので、人物の注釈などが欲しかった。
初版2004/02 講談社/現代新書
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