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2005.04.03

書評<戦争における「人殺し」の心理学>

戦争における「人殺し」の心理学   ThePhychologicalCost of Learning to Kill in War and Society

デーヴ・グロスマン Dave Grossman
BERSERGAさんとこ経由で本書を知り、購入。
アメリカ各軍の士官学校で教科書としても使われているそうで、戦場における兵士たちの心理的状態を探求している。
といっても心理学を難しく論じる本ではなく、多くの兵士の証言を織り交ぜながら状況を細分化することによって、兵士たちのおかれた状態を、戦場を知らない我々にも想像が容易なように構成されている。
著者はまず、第2次大戦前の近代戦争では兵士の発砲率が10~20%と低いことを突き止め、人間が実はいかに人間を殺せないかを我々に明かす。それゆえに殺人が人間の心にもたらす負担は大きい。ナイフ→ライフル→火砲→航空攻撃といったふうに攻撃者と被攻撃者の距離、あるいは両者の人種の違いなどがどんなふうに心理的な負担の違いをもたらすかを論じている。また殺人への抵抗を乗り越え、兵士たちを勇猛にするのはどんな要因があるのかを明かす。
またその発砲率の低さがベトナム戦争以後、急激に変化したのはなぜか、というのも本書も主題の一つである。ひとえに反射や脱感作といった心理的操作が兵士をどう変えたか。確かに敗北したとはいえ、なぜベトナム戦争があれほどアメリカ社会に影を落としたのかが理解できる。
殺人に関する分析書にもかかわらず、戦場においてさえ殺人から逃げる人間という存在が、”すてたもんじゃないな、人類も”と感じさせる、不思議な読書感を残す著作である。

初版2004/05 ちくま学芸文庫/文庫

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