書評<ジーニアス・ファクトリー>
ジーニアス・ファクトリー THE GENIUS FACTORY
ディヴィッド・プロッツ David Plotz
遺伝学を歪んで理解すると1つの極論に行き着く。それが<優生学>である。優れた遺伝子からは優れた子が生まれるはずだ。それがしいては人類の発展を促すはず。そんな壮大な妄想をもとに設立されたのが「ノーベル賞受賞者精子バンク」である。それは「レポジトリー・フォー・ジャーミナル・チョイス」と名づけられ、閉鎖されるまで200人の人口受精によるバンク・ベイビーを誕生させた。本書はこの精子バンクに関わった生死のドナー、母親たち、そしてその子供たちを追ったドキュメンタリーである。
本書は<優生学>の愚かしさや精子バンクの正確な記録というよりも、精子バンクに関わった人物たちの個人史の積み重ねである。「レポジトリー・フォー・ジャーミナル・チョイス」の謳い文句であったはずの優秀な精子ドナーからして”幻”であった。ではドナーはどのような人物がいたのか。母親たちにはどんな傾向があったのか。そして子供たちはどのように育っているのか。決して退屈な科学書ではなく、家族と血の繋がりを再考させる物語となっている。
生物がわざわざ減数分裂までして生殖するのは、生き残るための多様性を確保するためである。ゆえに、遺伝子もなんのコントロールもなく、偶然に発現する。まして、人間の場合は環境や教育に大きく左右される。それでも、”確率”を高めるために大枚をはたくのか。アメリカは少なくとも、大枚をはたく方向に向かっているようである。本書はそういった傾向に再考を促す書になっているといえる。
初版2005/10 早川書房/ハードカバー
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