書評<文明崩壊>
文明崩壊 COLLAPSE
ジャレド・ダイアモンド Jared Diamond
マヤやイースター島など、過去に消滅した社会はなぜ破局したのか?本書は地球環境や人類の宗教的・政治的状況など複数の視点からその謎を解き、現代の我々が何を学ぶべきかを訴えるノンフィクション大作である。
本書は主として4つのパートに分かれる。まず著者が馴染み深いアメリカのモンタナ州が抱える問題を紹介してから、過去の社会の崩壊を探る。イースター島やマヤのような一般的に知られている滅んだ社会から、南太平洋の島々やアイスランド、グリーンランドに至るまで、人類がいったん社会を築きながら滅亡してしまった原因を追究する。
2つ目に閉鎖的環境でありながら発展と閉じた事例をわずかだが紹介。
3つ目はルワンダやハイチなど現在進行形で崩壊しつつある社会を追求する。ルワンダやハイチは貧困に苦しみ、大虐殺が起きてもはや社会とはいえない状況にある。大虐殺の原因として、現代ではどうしても政治的状況に注目しがちだが、もちろん複数の要因が絡んでことを解説している。
4つ目に我々が確実に破壊されつつある地球環境において、今どんなことが進行しており、何をなさねばならないかを訴える。
本書の副題は「滅亡と存続の命運を分けるもの」であるが、こうした問題はたいてい”環境決定論”や”人類の愚かさ”といったところにまとめがちだ。もっといえば、環境問題が絡む著書ではイデオロギーが見え隠れするものだが、本書では極力抑えられている。大企業の悪行を正し、声高に環境保護を叫ぶわけでもなく、人類の愚かさを悲観するものでもない。物騒なタイトルだが、あくまで科学の啓蒙書である。さらに本書で好感が持てるのは、1つの問題にまとめることなく、複数の要因を挙げていること。本書はいくつかの科学的な視点をプロローグで示したうえで、その視点で古今の社会の崩壊の要因を探っている。南太平洋の島々でなぜ崩壊した社会と生き延びた社会があるのか?同じ島なのになぜハイチとドミニカの状況はあまりに違うのか?このへんの比較は特に興味深い。
本書の前半部分で延々と社会が崩壊する様を読んでいると、暗澹とした気分にさせられるが、さらに現在は世界規模で環境破壊と環境保護のマッチレースの真っ最中である。その決着が着くのは自分たちの時代かも知れないのである。
初版2005/12 草思社/ハードカバー
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