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2006.04.03

書評<エア・パワー>

エア・パワー ―その理論と実践―
石津朋之ほか
ライト兄弟による人類初の動力飛行から、わずか100年の間に航空機は軍事力の中心の1つに押し上げられてきた。その中で発展してきたエア・パワーの本質とはどんなものなのか。本書は複数の執筆者により、それを理論的に考察していく。
本書はまず、エア・パワーの歴史を辿る。民間機も含めたエア・パワーの解説のあと、現在の軍事学理論の古典の1つ、ドゥーエをまず紹介する。空軍力によってのみ戦争の趨勢を決めるとしたドゥーエの理論は、さらに次章の戦略爆撃理論に繋がっていく。エア・パワーの極みである戦略爆撃で、戦争の趨勢を決することができるのかを考察する。
さらに海軍におけるエア・パワーの考察と、日本の第2次大戦以前のエア・パワーの発展を分析する。陸軍・海軍の対立は日本にとって害しか生まなかったというのが一般的なイメージだが、技術的な面では良い点もあったのは意外な指摘だ。考察はさらに自衛隊の発展に続く。
分析は、第2次大戦後にエア・パワー信奉の中心であるアメリカ空軍の変化に移る。いくつかの実戦を経て、アメリカのエア・パワーはドラマチックな変遷をとげている。実戦の例としては、最近の湾岸戦争とコソボ紛争を章を別にして分析している。エア・パワーの最高の成功例といえる湾岸戦争と、評価がしにくいコソボでの懲罰爆撃。武力行使として何を2つの航空戦から学ぶのか。
一番興味深いのは「弱者にとってのエア・パワー」という章である。国家の経済格差の増大とテクノロジーの発展により、”ワンサイド・ゲーム”になりがちな近年の紛争だが、弱小国はどのように抵抗するのか。実際にコソボ紛争の際に、セルビアはアメリカ空軍の攻撃を国際社会の批判に晒し、また地上戦力を温存することに成功している。そのキーになるのはなんだったのかを考察する。
最後にエア・パワー概念の個別理論となる「ドクトリン」の持つ意義について述べている。戦力の枠だけを形成し、具体的な行動原則が見えない自衛隊に対する警告であろう。
このように、本書はミリオタが読むというより、”士官学校の教科書”といったふぜいの学術書であるが、そう難解な表現はなく、基礎的な知識があればちゃんと読み進める。エア・パワーに対するあいまいな概念を整理するのに最適な1冊である。

初版2005/06 芙蓉書房出版/ハードカバー

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