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2006.06.07

書評<補給戦>

補給戦―何が勝敗を決定するのか SUPPLYING WAR
マーチン・ファン・クレフェルト Martin van Creveid
BARSERGAさん推奨。
”プロは兵站を語り、アマチュアは戦略を語る”とはよく言われることだが、では実際の補給戦とはどんなものなのか?本書は18世紀の諸侯たちの戦争から第2次世界大戦まで、ヨーロッパの戦場において兵站の実際を調べ上げた力作である。
自分は戦史に疎いので、著者が批判するあまたの研究家が広めた固定概念とは無縁のつもりだったが、それでも本書が具体的な数字を挙げながら導く結論には目からウロコが落ちる。
例えば徒歩と馬と馬車が移動手段の18世紀の戦争においては、兵士の食料は現地調達が基本であり、補給に手間取りそうなイメージのある進撃よりも、包囲戦の方が兵站面において苦境に陥ること。
ナポレオンは戦争を変えた英雄だが、その補給手法は前時代の戦争と同じ手段に依っていたこと。
第1次大戦時、ドイツの鉄道線が野戦軍の進撃を制約していたこと。
第2次大戦時、ドイツは電撃戦などから自動車化のイメージが強いが、補給体制はまったく整っていなかったこと。連合軍のノルマンディ上陸作戦<オーヴァー・ロード>は調和ある補給体制を目指すあまり作戦が消極的になっていたこと。
これらの結論が、可能な限り正確な資料を精査し、計算することによって証明される。個人的に印象に残るのは、駅や港湾の荷捌き能力に戦争そのものが強く制約されることだ。”兵站線”を守れても、大量の荷が捌けなければ意味がない。このへんの能力は、現代ではアメリカ4軍だけが実際の戦争を戦えるだけのものを持っているといえる。
本書の著者は、他にも「戦争は政治の延長」といった常識を覆す著作もあるそうだ。翻訳を強く望む。

原書刊行/1977 再販初版/2006/05 中央公論新社/中公文庫BIBLIO

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Comments

こんばんはー

某国営放送の
「ドキュメント太平洋戦争」でも
兵站の事がよく解説されてたと思うっす
海上輸送ルートを確保する為の
シーレーン防衛なんかの解説も
ナカナカ解り易く解説していたと思います

曖昧な記憶を頼りにコメントしてみますた(・ω・)

>しょぼんぬさん
こんばんはー。
なんとハセガワでドキュメント太平洋戦争のDVDの通販やってるんですよ。一瞬、真剣に購入を考えてしまいたした(笑)。

こんばんは。

>第2次大戦時、ドイツは電撃戦などから自動車化のイメージが強いが、補給体制はまったく整っていなかったこと。

メガドライブの名作「アドバンスド大戦略」を思い出しました。米軍は最初からトラックの補給部隊がガンガン作れるのに独軍は馬車という・・・あれ、ある意味リアルだったのかも。
独軍の場合国力の無さを自覚した上で短期決戦の為の電撃戦でしたから、東部戦線があんなに膠着するとは想定の範囲外だったのかも知れませんね。

>あんぐらさん
こんばんはー。
アドバンスド大戦略、”分かった人”が製作に携わっていたんでしょうねえ。てゆうか、リアルすぎる(笑)。
東部戦線については、逆説的に補給の不足に関わらず必死の戦いを続ける前線部隊が泥沼の戦いを生んだとも言えるようです。数々の伝説は補給の不足によって生まれた、と。泣けますね。

「補給戦」とは関係ないようなあるような、高橋孟氏の「海軍めしたき物語」という本が昔出てました。海軍の主計兵(=めしたき兵)として戦争を生き抜き(「戦い抜き」という感じではないことは、この本を読めば判ります)、戦後は漫画家となった高橋氏の、海軍生活を描いたイラストエッセイでしたが、軍艦の厨房から見た太平洋戦争という視点が面白い一冊でした。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4101278016/249-9151126-6292366?v=glance&n=465392

>KWATさん
こんばんはー。
旧海軍はドイツに勝るエピソードがありそうですね。そのうちに読んでみます。

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