書評<神は沈黙せず>
神は沈黙せず〈上〉
神は沈黙せず〈下〉
山本 弘
幼い頃に土砂崩れで両親を失い、神の存在など信じないフリーライター、和久優歌。むろん宗教とも距離をおいているのにも関わらず、なぜか様々な超常現象を体験する。そして世界で頻発する超常現象は、神の存在と現出に繋がっていく。神と我々の関係が示されたとき、人類はどうするのか。
神の存在を真正面から扱ったSF作品の文庫化。自分としてはSF作家としてよりも”と学会”の会長としての山本氏の印象が強く、本作品も前半はUFOなどの超常現象を否定的に解釈する文章が連なるので、「小説の形を取った山本氏の知識の集大成か」などと勝手に思って読み進むと、やがて背筋がゾクゾクとくるような場面に何度も出くわす。特にそれまで否定的に解釈されてきた超常現象を、ラスト近くに逆に神の存在と意図の証明にするなど、小説としても一級の作品だ。
本書の読み解き方はいろいろあるとは思うが、自分が一番印象に残ったのは「神の意図を読んだと勘違いした人間の愚かさ」だと思う。自らが”特異点”となるべく、国家と国民を操ってきた男も、神が支配する地球全体の生態系あるいは人間社会全体においては、ほんの小さな不確定要素でしかないこと。神を信じる”弱さ”や信じない”強さ”よりも、神に媚びようとする”賢しさ”こそが軽蔑すべきものであることは、神を我々の日常レベルの何か、例えば権力者に例えても、あてはまることではないか。
モチーフとなったクラシックSFや進化論などへの興味へも繋がる、大作SFであることは間違いない。
初版2006/11 角川書店/角川文庫
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