書評<月をめざした二人の科学者>
月をめざした二人の科学者―アポロとスプートニクの軌跡
的川 泰宣
冷戦の真っ只中、アメリカとソ連はもう1つの熾烈なレースを繰り広げていた。すなわち、宇宙進出のレースである。人類初の人工衛星であるスプートニク打ち上げでリードしたソ連。月面着陸を果たし、レースに最終的に勝利したアメリカ。2つの国のロケット開発は、それぞれ1人の天才が中心にいた。フォン・ブラウンとコロリョフである。本書は、2人の出生からの動向を中心に、米ソの宇宙開発競争を描いている。
ドイツでV2ミサイルを開発し、戦後に請われてアメリカに移住したフォン・ブラウンがぶつかったのは、アメリカ海軍・空軍・陸軍が予算を獲りあう縄張り争いであった。実質的に海軍・空軍のロケット開発が挫折するまで、陸軍に所属していたフォン・ブラウンにお鉢が廻ってくることはなかった。その反省と、「月へ」という明確な目標がNASAへの力の集中へ向かう。
一方、強制収用所帰りのコロリョフはライバルとの諍いがありながらも、ロケット開発のリーダーとして宇宙開発の中心人物となる。彼がリーダーとして政治家と交渉から現場ロケット開発まで携わることにより、力と予算は彼に集中し、それがスプートニクへの成功につながる。だが、やがて宇宙開発は彼一人の手腕では手に負えないほど高度に、複雑になっていく。
宇宙への情熱に溢れた2人の天才の背後には、2つの異なるイデオロギーを中心に据えた強大な国家があった。コロリョフが勝ち取った世界初の人工衛星打ち上げという栄誉と、フォン・ブラウンが実現した月面への到達という夢の実現は、2つの国家の争いなくしてはなかった。2人の情熱よりも、2人の国家との奇妙なその関係の方が、個人的には印象に残る。
本書では終盤となるアポロ11号の栄光の影には、コロリョフの死とソ連の月面への道の挫折があった。そのころの物語は、あまり語られることはない。今度はその挫折にスポットを当てた物語を読みたいものだ。
初版2000/12 中央公論新社/中公新書
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