書評<蹴る群れ>
蹴る群れ
木村 元彦
地球は”サッカーの惑星”だ。世界のあらゆる地域、例え争いがあろうとも、そこにはサッカーがある。それゆえ、サッカーは政治や経済と無縁ではいられない。サイモン・クーパーがいうところの「サッカーの敵」だ。
だが、その存在があるからこそサッカーは奥深く、ドラマが生まれるんだと思う。本書もまた、サッカーそのものではなく、サッカーに関わる人間たちの悲劇や熱情を追っている。
本書は3つのパートに分かれる。第1部はイラクやレバノンなど中東を中心として、戦争の影を背負いながらもサッカーに引かれていく者たちを追ったレポート。”スポーツと政治は無縁”などというのは戯言だが、それでもサッカーをやめられない庶民の力を信じたくなる。
第2部は日本サッカーの礎となった人たちのレポート。大分トリニータを”作った”男、戦後、まだサッカーが一般的でない時代から少年団を組織し、ついには専用グラウンドまで手にした男。彼らには敵も数多いが、目的のために一途に突き進む情熱は本物だ。
第3部は、サッカーにおいて、特殊なポジションであるGKのパーソナリティを探るレポート。歴史に現れた様々なエピソードを持つGKたちへのインタビューで導かれる言葉はやはり、他のフィールドプレーヤーたちとは随分と異なる印象を受ける。
我々日本人は、完成され最先端を突っ走るヨーロッパのサッカーに憧れるが、まだ基盤も弱く、未発展だからこそドラマと情熱に溢れる”サッカーの日常”を過ごせているのかもしれない。本書はそんなことを感じさせる。
初版2007/02 講談社/ソフトカバー
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