書評<ヤモリの指>
ヤモリの指―生きもののスゴい能力から生まれたテクノロジー THE GECKO'S FOOT
ピーター・フォーブス Peter Forbs
例えば、我々人類はその知恵を生かし、揚力を生み出す翼と推進力を生み出す内燃機関を組み合わせて空を移動する。対して、昆虫は空を飛ぶのにまったく違う方法を使う。これまで培った技術とは全く別に、昆虫の飛行能力の原理を読み解き、新たな飛行技術を構築できないか?
地球上の他の生物の持つ特殊な能力をヒントに、従来の人類の作り出したツールとはまったく違うものを作り出すこと。このことをバイオ・インスピレーションという。
表題の”ヤモリの指”は、たとえ命が事切れても垂直に壁に貼りつく能力を持つ。というと吸盤のような足を連想してしまうが実態は全く逆で、その足には電子顕微鏡でやっと確認できるほど細かい”毛”がびっしり生えており、その抵抗によってヤモリは移動しているのだ。本書はこのような事例を挙げながら、バイオ・インスピレーションによる技術の革命を紹介する。この革命は電子顕微鏡により、ナノミリの微小な世界を知ることのできるようになった最近のことであり、そのほとんどは今だ研究の段階だ。だが、ハスの葉にヒントをもらった”汚れない壁の外壁”など、既に商品となったものもある。我々が手にしている缶飲料の不思議な模様も、決して装飾のためでなく、動物の巣にヒントをもらった軽量化構造の賜物だ。
このように本書は地球上の生命の驚異と、それを工業技術にする人間の知恵が内包されている。両方とも、つくづくも奥が深い。
初版2007/03 早川書房/ハードカバー
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