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2007.06.09

書評<ホメイニ師の賓客>

ホメイニ師の賓客 上―イラン米大使館占拠事件と果てなき相克 (1)  Guests of the Ayatollah
マーク・ボウデン  Mark Bowden 
先ごろ、国交断絶していたイランとアメリカが、20数年ぶりにイラク情勢を巡って会談を持ったことが伝えられた。本書はその国交断絶のきっかけとなり、今もアメリカでときどき”イラン攻撃論”が噂される根深い要因となったイランのアメリカ大使館占拠事件の全貌を明らかにするノンフィクションである。学生たちが大使館占拠を計画して実行に移し、1年余りを経て人質解放に至るこの事件を66人の人質、カーター政権、イランの上層部など多角的な面からとらえている。
1979年に起きたイランのアメリカ大使館占拠事件について、ミリオタの自分にとっては、その事件よりもデルタ・フォースの人質救出作戦”イーグル・クロウ”が失敗したことの方が印象的だ。だが、それは事件の一部分に過ぎない。過酷な環境におかれた人質たちは拘束者たちの横暴にどのように耐えたのか。宗教と政権の2重構造、あるいは宗教的熱狂と国益の狭間で揺れるイラン側の交渉者たちはどのように動いたのか。弱気を避難されながら冷静に交渉を続けていたカーター政権は、なぜ特殊部隊による解決をはかろうとしたのか。それらを再現しながら、イランという国家の複雑さ、揺れ動くアメリカの世論など、事件に関する様々な面を明らかにしていく。
とことんリアルを追求したノンフィクションだが、そこは著者もアメリカ人。ホメイニ師が現実世界を顧みない日和見主義者に描かれていたりするのは、少し割り引いて考えるべきかもしれない。

事件当時に比べ、現在のイランはほぼ政教一致のイスラム国家であり、ブッシュ政権は弱体化しているとはいえ”力”を信奉していて、かつてよりは両者とも国家として単純化・尖鋭化していると思う。果たして、両者が事件から教訓を学んでいるのか?少し考えさせられるのも事実だ。

初版2007/05 早川書房/ハードカバー

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