書評<生物と無生物のあいだ>
福岡 伸一
生物とは何か?この定義は生物を分子のレベルまで観察できる現在の科学においても、簡単なものではない。本書は分子生物学者である著者の研究風景と、分子生物学の歴史を巧みに絡み合わせながら、その答えを探していく。
分子生物学はまだ歴史の浅い学問であり、1959年生まれの著者が海外で研究生活をする場にも、偉大な先達の息吹を感じることができた。その風景を導入部にして研究者たちの成果を紹介し、分子生物学のキーポイントを解説していくので、ともすれば退屈な学術的な解説になることなく、読み進むうちに自然と分子生物学の基本が分かってくる。
ときには自分が立てた仮説に逆行するような実験結果が出ても、それが新たな発想につながっていく研究のドキュメントに感情移入し、著者が結論する生物の姿になるほど納得する。学者の伝記、科学の解説書、著者の研究生活の歴史のバランスが絶妙な分子生物学入門書である。
初版2007/05 講談社/講談社新書
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