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2007.07.22

書評<U307を雷撃せよ>


ジェフ・エドワーズ
原子炉の事故により深刻なエネルギー不足に陥ったドイツは、石油確保のため、シラジ(中東の架空の国;位置はクウェート近辺、体制はフセイン体制のイラク)にAIP(非大気依存推進装置)を搭載した最新の通常型潜水艦4隻の売却を決定し、腕利きのドイツ海軍士官にフェリーをまかせた。それを阻止しようとイギリスはフリゲートをジブラルタル海峡に派遣、海峡を封鎖するが、ドイツ潜水艦は実力を行使、突破する。さらに地中海にて空母を中心としたアメリカ海軍の阻止部隊も突破される。最終ラインとして、水上戦闘艦4隻で構成する索敵攻撃部隊が紅海で待ち受ける。索敵攻撃部隊は、ドイツ潜水艦のシラジ到着を阻止できるか?

アメリカ海軍対潜特技官を長く勤めた著者が描く軍事スリラー。最新の通常型潜水艦に対するASW(対潜水艦戦)がどのようなものか知りたかったのと、なぜかいい作家を見つけてくる文春文庫を信じて購入。ASWを扱った小説としてはご都合主義的な部分もあるが、適度な情報量と練られたプロットにより、飽きさせない作品となっている。また、魚雷という兵器がいかに歴史を変えたかとの解説が挿入され、著者のASWに対する思い入れがうかがえる。
ご都合主義かな、と思ったのは燃料電池をAIPに使ったドイツ潜水艦が、現在より多少未来とはいえ、20ノットで巡航できるほどの性能を持てるかということと、浅海では発見しにくいといわれる通常型潜水艦を、ソノブイその他であっさり見つけてしまうこと。まあ、潜水艦と水上戦闘艦が遭遇しないと、そもそもドラマにならないのでしょうがないか。
一方で、通常型潜水艦が最新の対潜バリアを突破するには何が必要かはよく分かる。
テクノロジーの方は、今だ現実には実現できていない(と思われる)水中発射SAM(対空ミサイル)。ディッピングソナーを使う対潜ヘリを追い払えるだけで、かなり有利に戦闘が展開できる。光ファイバー誘導のポリフェムや、オフ・ボアサイトとLOAL(発射後ロックオン)が使えるAIM-9Xがこの用途向けにテストされたとか言われてるんだけど、実現性は不明。自衛隊は96式誘導弾およびAAM-5のどちらも水中発射SAMに使えそうなんだけど。
戦術の方は、当たり前だけどチームワーク。単独ではなく多数艦による群狼戦術は今だ有効そうだし、水上戦闘艦のASWを妨害するために味方航空機や、ゲリラ的なボートが協力するのも効果的。
逆に言えば、このフィクションを参考にする限りは、やはり通常型潜水艦が最新の水上ASWシステムとまともにやり合おうというのは難しいとも言える。それとも、現実はもっと違うものなのか。いつの時代も潜水艦を巡る戦いは見えづらい。たとえそれがフィクションであっても。

初版2007/07 文春文庫/文庫


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Comments

少し立ち読みしてきましたが、購入はしませんでした。
U君達に目的地があることが、最大の弱みでしょう。無ければもっとやっかいに立ち回れるでしょうに。

>高○さん
まさに指摘されるとおりで、移動戦闘をするばっかりに不利を招くんですよね。通常型潜水艦はやはりチョーク・ポイントでの戦いが本分なんでしょうね。

第二次大戦後のアメリカ海軍三大派閥のうち、サブマリナーとアビエイターについては小説や映画、関係者のドキュメンタリーで垣間見る事ができましたが
今回は派閥としては一番古い水上艦乗り(何て言うんでしょうね?)の日常とアクションを描いた秀作だと思います。
実在のAIP潜水艦は速力5ノットで15日間の作戦行動が可能。つまり15日間で3000㎞の移動を隠密裏にする事が可能。
しかし対峙する艦隊が平均20ノット以上で移動するのであればナチスドイツ海軍の様な群狼戦法でも取らなきゃ戦果は期待できません。群狼を作るには
20隻じゃちょっと足りないかもしれませんね。

ミリタリー関係で私がお勧めするのは漫画では山下いくとの『ダークウィスパー』。これを超えるSF、海洋冒険物、小沢さとるを完全に超えた潜水艦スリラーはありません。
ドキュメントとしてはNR-1と潜水艦マフィアの横暴を暴いた『暗黒水域』と、知られざるソ連サブマリナーの苦悩を描いたピーター・ハクソーセンの『敵対水域』。
そういえばこの『U-307を雷撃せよ』(原題:Torpedo)は、オーディオブックCDもあり、作者のHPで試聴できましたがなかなか聞きやすかった。
ボウイ艦長の第3作目、中国とインドの海戦物も出版されてる様なので読んでみようかな。

>Ytokichi さん
いろいろ教えていただき、ありがとうございます。邦訳の方も2巻目が出てたんですね。さっそく読んでみます。

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