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2007.09.29

書評<進化の設計者>


あまり遠くない近未来。物語の舞台は3つ。1つめは高齢化が進んだ住宅街で独居老人の死を確認する横浜市の福祉課。職員が警察との共同捜査でホームレスの群れの中に消えたジャーナリストを追ううち、奇妙な環境に適応した猫たちの”城”に行きつく。2つめは現在のそれをはるかに超える能力を持つスーパーコンピューターによって気象を予測する公的機関。エンジニアが予測が外れた台風の進路を再検討するうち、そこに新たな可能性を発見するが、そんな中で放火事件が起こる。3つめは太平洋上に浮かぶ海上都市。地球温暖化防止に貢献すると同時に、新たな秩序をつくる都市になるはずの未来都市をテロが襲う。その背後に共通してチラつく影がID(インテリジェント・デザイン)仮説を信奉するユーレカなる組織。彼らの最終目的とは何か?

ごく最近の分子生物学に基づいた新たな進化論をテーマにしたSF。「突然変異は従来考えられていたよりも頻繁に起こり、環境への適応は意外にすばやく行われるらしい」「環境に適応した新種が拡大する速度は従来考えられていたよりも早く、急速に進展するらしい」といった最新の仮説を取り入れ、また近未来に実現する科学技術を物語の中に散りばめている。古くて新しい優生学やID仮説を唱える組織と対比し、人類が行くべき道を探っていくそのストーリーは、まるで科学解説書を読んでいるよう。サスペンスはあるが、全体的には環境に適応していく人類と、人の温もりを信じる、暖かい感じのするSFだ。

初版2007/09 早川書房/ハヤカワJコレクション

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