書評<家なき鳥、星をこえるプラネテス>
時は現在から約70年後。石油は既に枯れ、世界のエネルギーは月から採掘されるヘリウムを使用した核融合に移行していた。地球圏においては、宇宙は人が働き生活する場となり、その手の先は木星開発にまで向けられようとしていた。
かつては石油の富により栄えたアラブの砂漠を旅する隊商の息子であるハキムは、父の死をきっかけに宇宙を目指すため、軍に入隊する。そこにあったのは、国家と人間のエゴであった。ハキムはその全てに復讐するため、宇宙開発に対するテロに関わっていく。
マンガ「プラネテス」から派生した小説。続編かと期待したが、「プラネテス」の主人公と対峙することになるテロリスト、ハキムの物語である。素朴な砂漠の民であったハキムが、人間と国家のエゴに幻滅し、それに復讐するためにテロを起こしていくまでを描く。ハキムの所属する国家の成り立ちから大国のエゴによるものとする設定し、軍とそこに所属する人間のエゴと、それに対比される暖かいものに触れ、内なる葛藤を経て変節するハキムの心情を描き、テロなるものが貧困やイデオロギー、宗教ではなく、人間のエゴこそによって生み出されることを描き出す。
そしてハキムがそのエゴを超越するものに出会うのが、「プラネテス」本編と交差する場面である。この対比は見事であり、本編と著者は違えど、テーマを同一としながら対を成す物語として成立している。
けどやっぱり、続編も読みたいよね。
初版2007/11 講談社/ソフトカバー
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