書評<裸者と裸者>
近未来の日本。不景気が全土を覆い、高まる失業率などから治安や政情は混乱を極めていた。そんな中、首都・東京の自衛隊が”革命”を目指し、”救国臨時政府”を立ち上げる。だが、それは全土に軍閥を生み、敵味方の勢力が入り混じる内乱へのきっかけに過ぎなかった。略奪やレイプが横行する地方都市で、主人公・佐々木海人は年幼い兄弟たちのために懸命に生きていく。そして偶然、海人に出会った14歳の姉妹は混乱した状況の中で、女性ギャングを組織していく。
関東の諸都市がそれぞれの自衛隊駐屯地ごとに軍閥を成し、権益を求めて戦闘を繰り返す。そこにマフィアなど諸勢力が入り混じり、ますます状況は混とんとしていく。そんな中で、生きるために必死に知恵を絞り、ときに悪事を働きながらも、自らの定めた規範だけは守り通して生きていく主人公の子供たちの成長物語。端的にこの物語を表すとそうなる。内乱という大状況も、主人公たちを取り巻く小状況もまったく先が読めず、次の展開に引き込まれていく。主人公は決して孤独というわけではなく、肝心な場面では大人たちも助けに入る。それも、主人公たちは自らの規範を守っていればこそ、だ。自分の中で譲れない”正義の一線”とは何か。それを考えさせられる。
ただ、追い込まれた状況とはいえ、いくつもの軍閥を生み、略奪やレイプなどの暴力へ向かう"パワー”が今の日本人(主に男性)にあるかどうかは個人的に疑問。それとも、銃と戦争はそれほどに人間を変えてしまうものだろうか。
初版2007/11 角川書店/角川文庫
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