書評<スプライトシュピーゲルIV テンペスト>
国連都市、ウィーンにて開かれる国際法廷。裁かれるのはアフリカのダルフール地方の虐殺の首謀者であり、世界の要人がその証人として法廷に集まる。その証人を護衛するためにMSSの要撃小隊が派遣される。
一方、ウィーンの国際空港では、テロリストによるハイジャックが発生した直後、中国空軍の戦闘機が亡命を求めて着陸し、大混乱に陥る。MPBの要撃小隊は、テロリストと戦闘機のパイロットの防衛を阻もうとする中国人のエージェントの迎撃を命じられる。
別個と思われた2つの事件は、やがて繋がりを見せ始める。
シェアワールドした2つの物語が別レーベルから描かれる物語の第4弾。そのアクションのテンションの高さは相変わらずであり、もうストーリーに引き込まれっぱなしである。未来の物語でありながら、可能な限り現在の国際情勢を反映させた設定は、ストーリーを重厚にする。
ややネタバレになるが、今回のストーリーで印象に残るのは、それぞれの小隊長に同行し、それぞれの少女の成長に深く関わるFBIとCIAの男。昨今の日本のこの手のフィクションでは、アメリカは「世界の悪事の裏に必ず関わる、自国の利益だけを優先させるエゴイスト国家」として描かれることが多く、このシリーズにおいても前作まではそんな感じだった。だが、今回の2作に登場するアメリカのエージェントは、アメリカの掲げる理想を信じ、自らの使命とやるべきことのために命を張るプロフェッショナルとして描かれる。その境遇ゆえ、ときに挫折しそうになる少女たちに”前に進む”ことを強烈に促す。自分にとっての正義と大義がブレない彼らの理想と意志は、先に述べた国家のエゴと表裏一体だ。著者が本シリーズで描こうとする世界は深い。今後も注目である。
初版2008/04 富士見ファンタジア文庫/角川スニーカー文庫
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