書評<僕たちの終末>
太陽活動の異変により、人類滅亡の危機が間近にせまっている2050年代初頭。ネット上に「宇宙船を建造して太陽系外へ脱出しよう」なるプロジェクトが立ち上がる。いつでも自分がいるべき「ここではないどこか」を探す夢見がちな科学者と、人を裏切るのも裏切られるのも嫌いな現実的な女が出会い、プロジェクトは動き始める。
人類滅亡という危機が近未来にせまったとき、実際に太陽系外へ脱出するにはどのようなステップを踏むべきなのか?本書のテーマの1つはそこにある。組合を作って金を集め、企業にスペースシップの建造を委託し、スペースシップを建造するための資材輸送のために空港建設から始めて・・・と、”リアル”な宇宙船開発をシュミレートする。一番手近な恒星系に到達するだけでも数十年を要する宇宙船はどうあるべきかなどが、技術者の言葉を通して語られる。
本書のもう1つのテーマが人類社会の”理屈の合わなさ”だ。終末がそこまできているというのに、宇宙船建造に法律や国家間の駆け引きがのしかかり、技術的な壁だけでも大きいのに、なおかつ政治的・人道的な壁がのしかかる。主人公たちが宇宙船出発の直前になって”生き残ることよりも大切なもの”に対する感情を優先させるのに対し、生き残るために陰謀と裏切りを巡らせる者たちの対比。自分としてはどちらも”人間らしい感情”だと思う。
肝心なところを端折ったりして、やや逃げているところもあるが、著者独特の”青春SF小説”は健在である。
初版2008/05 角川春樹事務所/ハルキ文庫
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