書評<空の中>
四国沖の空自訓練海域にて、オールジャパンで開発中だったリージョナルジェットと、空自のF-15Jイーグルの墜落事故が発生する。F-15Jの事故の際にかろうじて生き残ったパイロットは、そこに未確認飛行体を確認していた。彼女は、リージョナルジェットの事故調査にあたっていた調査員とともに、未確認飛行体との接触に成功する。
一方、空自の事故で父親を失った少年も、奇妙な生物を拾う。その生物は、父親の事故の際に未確認飛行体から剥がれ落ちたものだった。2つの事件は、やがて交差していく。
文庫でけっこうなボリュームだが、4時間弱で一気に読み切ってしまった。舞台となる”空の中”や空自の基地などの正確な描写でリアリティを高めながら、魅力的なキャラクターがストーリーをどんどん動かしていくので、物語の中ににどんどん引き込まれていく。
ストーリーの柱になるのは”コミュニケーションによるお互いの理解不足の解消”だ。まさしくツンデレと呼ぶに相応しい女性イーグルライダーと、表面は軽薄だが芯のある男。全と個の概念を持たない生命体と、ややこしい集団の中で生きている人間。どこかですれ違ってしまった幼馴染み。肉親を失い、お互いを許すことのできない母と娘。物語が進んでいくにつれて、それぞれの関係が徐々に近づいていくのが、妙に心地よい。
それと、物語の舞台の1つの高知の方言が良いんだよなあ。女の子が都市で出てきて、よそいきの言葉でしゃべっても、どこかに残る方言がちゃんと再現されてるんだよなあ(東京の人には分んないかも)。ホント、著者の本が売れるのも納得です。
初版2008/06 角川書店/角川文庫。
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