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2008.06.19

書評<海の友情―米国海軍と海上自衛隊>


BARSERGAさん推奨>

太平洋戦争後、軍が解体されて平和憲法が制定された日本において自衛隊が組織されたのは、朝鮮戦争に前後して兵力を朝鮮半島に集中させる必要のあったアメリカが、東アジアの”力の空白”を懸念したからである。この定説に大きな反論はないと思う。だが、そうした政治的な動きとは別に、海自発足とその発展の裏には旧帝国海軍の幹部たちとアメリカ海軍の幹部が育んだ個人と個人の関係も大きく影響していた。本書は海自発足の経緯を研究するために来日した将校が出会った海軍の男たちを通して、今日までのアメリカ海軍と海自の密接な関係を描くノンフィクションである。

自衛隊と旧軍の歴史はスッパリ断ち切られているのが建前だが、海自は特に旧海軍の伝統を色濃く残している。死線をくぐり抜けた旧海軍の将校たちがブルーウォーター・ネービーの復活をかけ、様々な努力を尽くした結果である。彼らは新たに”教師”となったアメリカ海軍からよく学んだ。その過程でアメリカ人は日本人の清廉さや優しさに触れ、日本人はアメリカ人の誠実さに触れ、友情を育む。だが、彼らは10年前は戦火を交えた兵士どうしである。彼らが深い絆を結ぶにいたった理由に、著者は”ともにイギリス海軍に学んだ海軍気質”を見る。共通の土台を持つ彼らは折に触れて関係を深め、海自は太平洋の安全保障を一翼を担うまでに成長し、歴史の転換点となる湾岸戦争後の掃海艇派遣に至ることになる。引退して老人になろうとも、かくしゃくと歴史を語る海軍軍人たちの誠実さの連続こそが、日本とアメリカの良好な関係を支えてきたことが分かる。海自の歴史の一面を知ることができるとともに、爽やかな読後感を残す良書である。

初版2001/01 中央公論新社/中央公論新書

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