書評< 四十七人目の男>
老齢にさしかかり、悠々自適の生活を送りつつあった元海兵隊員のボブ・リー・スワガーを、ヤノという日本人が訪ねる。硫黄島の激戦で父をなくした彼は、その激戦を生き残ったボブの父が、ヤノの父の軍刀を戦利品として持ち帰り、それがボブに受け継がれているのではないかと、考えていたのだ。あいにく、ボブの手元にはその刀はなかったが、ヤノの帰国後にボブはその刀を係累を辿って発見した。そして日本を訪問し、ヤノに譲り渡した。ボブとヤノは友人として絆を結ぶ。だが、ボブがヤノの家を発った直後、ヤノは一家ともども惨殺されてしまう。ボブはその事件を追ううち、事件の裏にある陰謀を見出す。
アメリカの南部男のタフさを具現化し、日本人があまり知ることのないアメリカの闇を見せてくれていたスワガー・サーガの最新刊は、なぜか日本が舞台であり、主役は”日本刀の世界”である。これは名うての映画評論家でもある著者が、ハリウッドの低級化に見切りをつけ、昨今の「たそがれ清兵衛」はじめとした日本映画にハマったせいであるらしい。物語のバック・ボーンはタイトルから分かるとおり「忠臣蔵(赤穂四十七士)」であり、それだけではなくボブの修行のシーンをはじめとして様々な日本映画の影響が色濃い。アメリカ人の魂の一部であるはずの銃器類はまったく登場しないのは、個人的にはちょっとやりすぎの感があると思うのだが。
日本人読者としては基本的な設定の段階で首をひねるところがあるが、物語そのものは日本人の大好きな義理人情・仇討ちであり、これまでの著者の作品の中では一番読みやすいのもまた確かである。
ネタバレになるが、今回の大ボスは”日本ポルノ界の帝王”である。なのでアメリカ人が異常だと思っている日本のAVがちょくちょく出てくるのだが、その1つがコスプレであるらしい。ワタクシ、アメリカ人からすると”ヘンタイ”確定みたいです。
初版2008/06 扶桑社/文庫
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