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2008.10.06

書評<チャイルド44>


1950年代のソ連。スターリンの恐怖政治の中、人々は絶え間ない監視と繰り返される不当逮捕に脅えながら生活していた。また、それは体制維持のため、偽りと嘘で固められた時代でもあった。
その体制の中で恐怖の的となった国家保安省のレオは、妻を告発しなかった罪でモスクワから地方の民警に追放される。そこでかれは子供の殺人事件と係わることになる。これまでの自分の行動に対する贖罪の意識から、彼は1度は終了した捜査を続行し、そこに連続殺人を見出す。共産主義国家の無謬性を維持するため、封印された犯罪。彼は一度は心の離れた妻と共に、絶望的な捜査を続ける。


堕落した西側の資本主義国家とは違い、人々が平等に、幸福に暮らすはずの楽園。その実態はあらゆる行動と発言が監視され、身内や友人に逮捕者がいない者などない、恐怖に満ちた社会。そんな中で繰り返される猟奇的な犯罪は、国家の建前に反するため、認められもしない。絶望や苦悩といったマイナスの感情だけが支配する社会の中で、逃亡と捜査を続ける主人公。実話をベースにしているそうで、まさに一級のサスペンスとミステリーである。

が、しかし。ネタバレになってしまうが、終盤に急速に物語が明るくなっていくのはいかがなものか。殺人の捜査なのでハッピーエンドとはいかないが、印象としてはそれに近い。個人的には、重厚に進んでいくサスペンスが急にハリウッド的なオチに向かっていく感じで、どうにも腑に落ちない。ネットでの評判は高いが、個人的には、臥竜点睛を欠くといった印象がどうにも拭えない。後書きを読むと著者は脚本家だそう。なんだか納得した。

初版2008/09 新潮社/新潮文庫

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