書評<鈴木亜久里の挫折―F1チーム破綻の真実>
日本人が夢見た”オールジャパン”のF1チームは、夢がかなった後、わずかな時間で消滅することとなった。本書はそのチームを率いた鈴木亜久里とその側近のインタビューをもとに、その発端から活動停止までを追ったノンフィクションである。
巨額の費用を費やすF1サーカスに乗り込むのに、ホンダというバックアップはあるものの、メインのスポンサーを持たぬまま、夢の実現に滑り出してしまった<スーパーアグリF1>。チームの活動は、常に資金不足との戦いであった。本書も、印象に残るのはスポンサー探しや資金繰りに関わる話ばかりである。それには、大金が動く匂いを嗅ぎつける怪しげな人々との関わりも含まれる。企業を規模や歴史で判断する時代ではもはやないのは分かるが、それでもIT企業はじめとする新興企業の金回りなんぞというものが、いかにいい加減かが分かるというのも、今回の一件の皮肉であろう。
現在のF1サーカスは、一人の日本人が夢見るにはあまりにヨーロッパ的で、流動的で、さらに巨額の富を必要とする。果たして、それがF1にとっても幸せなことなのか?鈴木亜久里の挫折を通して、そんなことを考えさせられる1冊である。
初版2008/10 文芸春秋/文春文庫
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