書評<詩羽のいる街>
とある地方の、日本のどこでもありそうな街。この街が特別なのは詩羽という女性がいること。街の人たちをつなぐことによって、どこにも家を持たず、お金すら持たずに生きている詩羽。そんな彼女と出会った人々の目線で、詩羽によって変わる人、変わる街が描かれる。
物語は、詩羽が子供たちがコレクションするカードのトレードを仕切るところから始まる。三角トレードどころではなく、集まった子供たち全てに満足がいくように仕切る詩羽。それを小さな街に拡大するとどうなるか?著者は愛や正義といった大義名分ではなく、実利によってまとまる街の姿を描きたかったのだと思う。サイエンスに社会学まで含めるなら、著者が言うように確かに立派なSFだ。
物語は複数の人たちのエピソードが集結していく形で進むが、それは概ね現実の事件を基にしている。ネットの中で繰り広げられる中傷。ゆがんだ悪意。果てはオタクたちをターゲットにした祭りまで。それに対して、詩羽が代弁する著者の考えは、オタク近辺にポジションする人なら概ね納得すると思う。だが、それに素直に共感するか、説教くさいと思うか。人としてのひねくれ度が分かる物語だ。
初版2008/09 角川グループパブリッシング/ハードカバー
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