書評<風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記>
中世のドイツ。川沿いの寂れた荘園に、左遷された若き騎士ルドガーが執政官として赴任するところから物語は始まる。川の中州の泉で、ルドガーは精霊を名乗る女性に出会う。彼女はルドガーに「人が集う”街”」を造ってほしいと依頼する。彼は領主の反感を買うことを予感しながら、街作りに着手する。彼女は実は地球外生命体の作り出す感覚器官であった。ルドガーはときに彼女の力を借りながら、街を大きくしていく。
カエサルを知り、街に集う人々を観察するのが大好きな精霊=地球外生命体の存在が中世の物語をファンタジーにしているが、基本的には著者の過去の作品「復活の地」を思い出す、街作りの物語である。。過去の因習を破り、他者の独占市場に切り込む。キリスト教によって定められていた価値観を突破し、実利を求め、大衆を引きつける。ここは”改革者”の物語だ。そしてその街作りは、反感や嫉妬を読んでしまい、ときには戦いとなる。ルドガーは機知に富んだ戦術で対応する。ここは”戦士”の物語である。この2つの物語を”精霊”が後押しするが、あくまで物語はルネサンス前夜の中世の人々の年代記であり、精霊の”彼らを導くもの”としてその存在感は小さい。SFでありながら、当時の世界観が学べる1冊。ハードカバーで購入機会のハードルを上げるよりも、若年層のために文庫で出した方がいいんではないでしょうか。
初版2008/10 角川春樹事務所/ハードカバー
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