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2008.10.04

書評<ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト>


「個体発生は系統発生を繰り返す」という学説をご存じだろうか?例えば人間の赤ちゃんは受精後、胎内で稚魚に似た姿になり、オタマジャクシに似た姿になり、爬虫類に似た姿になり、最終的に新生児となる、というやつである。現に段階を追って胎児を見ていくとそんなふうに見えなくないというところがやっかいであるが、この説は明確に否定されている。だが、ある程度細胞分裂を繰り返した受精卵において、ヒトの肺と魚のエラなど似た機能を持つ器官の発現する部位が同じである。このことは、我々哺乳類と魚類が共通の祖先を持つことを意味する。さらに魚類と哺乳類を解剖学的に見ていくと、様々な部分で驚くほどの共通点が見つかる。
本書ではこのように、地球上のあらゆる生物の共通点と相違点を見出すことにより、生物がどんな進化を辿ってきたかを解き明かすものである。化石を調査する古生物学と、解剖学の両方において教鞭をとる著者ならではの解説は視点に偏りがなく、また興味深いものばかりだ。動物のボディプラン、すなわち手足や感覚器官を中心に、他の生物と共通の由来を見出し、それがいかに精緻なものであるか、また最後には共通の由来を持つゆえに我々の体がどんな問題を抱えているかを論じる。
声高に進化論を唱えるのではなく、人間の体の中に様々な生物の痕跡を導き出すことにより、地球上の生物の繋がりを我々に伝えてくれる好著である。

初版2008/09 早川書房/ハードカバー

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