書評<ブラックホールで死んでみる>
”サイエンス・エッセイ”において、どこまで専門的に踏み込むか、そのさじ加減は難しい。日常の常識になっていることを論じてもさほど感銘を与えないし、かといってあまりに難解だと、読み進むこともできない。題材が天文学や物理となると、他分野に増してその判断は困難だと思う。
その点、本書は非常にバランスが取れたエッセイだ。例えば、太陽の中心で核融合が起こっていることは、中高校で理科を普通に履修していれば知ってることだ。だが、核融合の結果としてそのコアから発するガンマ線が、太陽そのものから脱出するのに百万年かかることをご存じだろうか(ちなみに太陽から地球までは8分)?そのガンマ線が太陽の中の多くの中性子や陽子と衝突することによりエネルギーを失い、可視光線まで周波数を落とすことは?著者はこうした基本的知識プラスアルファの興味深い宇宙論を我々に展開してくれる。
本書は専門誌連載からのピックアップなので、その扱う分野は幅広いし、ただ単に天文学や宇宙論だけでなく、科学と宗教の関係にまで話は広がる。その一つ一つが興味深いし、まだ仮説である理論は仮説であるとしっかりと記している点は良心的だ。
天文学を中心とした科学的視野が拡がる良書である。
初版2008/10 早川書房/ハードカバー
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