書評<動的平衝>
生物を構成する細胞は常に新陳代謝しているのに、我々は我々の姿を保っている。これを生物学の用語で「動的平衝」という。考えてみれば不思議なことで、例えば皮膚の細胞はなぜ皮膚であることを繰り返すのか、記憶はなぜ保持されているのか、疑問はつきない。本書は「動的平衝」をキーワードにし、ダイエットや病気などについて新たな視点を提供する。
「生物と無生物のあいだ」がベストセラーとなった分子生物学者である著者の雑誌連載をまとめたもの。「動的平衝」は分子生物学者としての著者のメインテーマである。本書はそれに「時間」を絡めていく。気の遠くなるような時間をかけて現在の姿に進化した人間だが、20世紀以後にわずかな時間で急激に自らを取り巻く環境を変化させた。それゆえ、その弊害が様々なところで現れている。産業革命以後の人間はとにかく「生き急ぎ」だと感じる。
それと、「動的平衝」とはやや離れるが、バイオビジネスに関するコラムも興味深い。シンガポールなどは新たな産業の中心の1つにバイオビジネスを据え、巨大な研究施設を建設し、世界中から学者をかき集めている。それに対する著者の考えはやや懐疑的だ。今度はここらへんを掘り下げた著作を読みたい。
初版2009/02 木楽舎/ハードカバー
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