書評<見る>
我々はいわゆる五感のうち、視覚に頼るところが大きい。だが、眼という器官と、「見る」という行為は謎と脅威に満ちている。本書は多種多様な生物の眼を分析し、眼に関する進化の謎を追求し、視覚という行為とはいかなるものか、「眼」と「見る」ことについて、多角的に検証する。
学問というのは何においても横断的なものだ。なので「眼」と「見る」ことについて、広範囲に知識を提供しようという試みは評価できる。だが、広範囲ゆえに「眼」に関して基本的な解説が足りなかったり、様々な専門用語が解説なしで飛び出したり、バランスが悪いことこのうえない。
何よりも、「眼」に関わる科学者たちへのリスペクトが足りないと思う。例えば進化論でいえば、スティーブン・グールドはじめとした専門家の検証を自分の求める答えを与えてくれない、ということで切って捨てている。我々は視覚に感覚の多くを依っているが、今我々が持っている「眼」のために、「全体」が進化したわけではない。
「宇宙創成」の著者サイモン・シンなどは多岐に渡る学問を繋げるのがうまく、科学者たちとその学説を過不足なく(素人読者に向けて)適切に紹介する。「宇宙創成」を読んだ後だけに、そのあたりの著者の力量は如実に感じる。
というわけで、進化論・大脳生理学・生物内部の化学的反応・視覚や錯覚についてなど、それぞれの専門書を読む方が建設的でしょう。
初版2009/02 早川書房/ハードカバー
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