書評<海の底>
基地祭が開催されていた海自横須賀基地に、突如ザリガニに似た巨大な甲殻類の大群が上陸する。逃げ惑う人々が次々と犠牲になる中、なんとか警察は防衛線を形成する。その惨事の中で、停泊中の海自潜水艦に逃げ込んだ子供たちがいた。自衛隊に実力行使を許可するか否か、政府が相変わらずのグダグダな対応で時間を浪費する中、彼らははたして生き延びることができるか?
物語の舞台設定自体はありがちな怪獣ものだが、魅力的なキャラクターを配置して読者を引きつける”大人のライトノベル”。ストーリーは潜水艦の中で若い海自の士官候補二人と子供たちの間で展開される物語と、頭の固い警察官僚組織を巧みに操る個性豊かな警察幹部の物語の2つを軸としている。子供たちが密閉空間でそれぞれが成長する物語は最終的に気分を爽快にし、個性的なリーダーシップを発揮する警察内部の物語は、現場と幹部のすれ違いに悩む組織人なら少なからず共感するところがあると思う。その他、態度は頼りないがその聡明さで謎を解決していく科学者や、ネットワークの強さを発揮するミリオタ集団など、とにかく人物の書き方がうまい。あっという間にラストまで読んでしまうこと請け合いの作品である。
初版2009/04 角川書店/角川文庫
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