書評<星を継ぐもの>
ときは21世紀も中盤。人類はようやく政体統一とまではいかないまでも世界的な平和を享受する段に達し、かつての軍事費は宇宙開発に向けられていた。
すでに金星や火星、そして木星にも到達しようとしていたとき、月で真紅の宇宙服を着た男性の死体が発見された。それは明らかに人類の姿をしていたが、年代測定の結果は驚くべきものだった。”彼”は5万年前に亡くなっていたのである。果たして”彼”は何者か?調査が進むたび、謎が深まっていく。
定期的に2ちゃんねるでスレッドが立つ「このSFだけは読んどけ!」を見るごとに、名作と呼ばれるSFを読んでいるのが、本書はなぜ今まで読まなかったのか後悔するくらい、期待を外さない作品だった。
月に残された”宇宙人の遺体”の調査が、いつの間にか人類の歴史の定説を覆していく驚き。それは地学・生物学・進化論をしっかりとベースにしており、まるでフィクションの違和感がない。なぜ数々の類人猿を押しのけて、人類だけが地球上の生物で特別な存在になったのか、フィクションであるはずの本作の説を信じたくなるほどだ。
ストーリーも抜群だ。主人公たる物理学者のハントが最終回答を出したと思ったら、ライバルが見事にそれをひっくり返すどんでん返し。最後の最後までプロローグの伏線を回収しない物語の組み立ては、ミステリーとしても一流である。
原著は1977年上梓。だが、SFといえども名作はまったく色褪せないことを証明する作品だ。
初版1981 創元推理文庫/東京創元社
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