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2009.05.02

書評<「食糧危機」をあおってはいけない>

昨年の小麦や油類の価格高騰をきっかけに、さかんに日本では”食糧危機”が叫ばれている。
食料自給率は40%、さらに海外での水資源の枯渇や穀物のバイオ燃料への転換などにより、食糧輸入自体が困難になっていくのではないかと危惧されている。
本書はそうした論調に対する反論である。まず世界の人口動態予測そのものに疑問を投げかけ、それに基づいた食糧需給予測を疑う。さらに、多くの食料需給予測は「経済が発展すると食生活が欧米化する」といったありがち誤解に基づいており、世界の様々な食文化や宗教的な禁忌を無視していることを指摘する。
さらに食糧生産についても、そもそも欧米やオーストラリアは”大ざっぱ”な農業であり、豊作あるいは凶作に一喜一憂すべきではなく、また食糧生産余力もまだまだあるとしている。
そして、食糧はそもそも余っており、世界が押し付けあっているのが現状であることを明かしている。昨今、WTOをはじめとした貿易自由化交渉ではそれぞれの国が自国の農業を守るために市場開放を拒否しており、このことだけでも本書の指摘が概ね正しいと判断できる。食糧を売りたい国で世界は溢れているのだ。

世界人口が爆発し始めた1970年代、中国が驚異的な発展を始めた1990年代に、同じように食糧危機が叫ばれたことを著者は指摘する。だが、世界はそれを”なんとなく”乗り越えてきた。人は忘れやすい生き物だという著者の指摘には、まったく同意で恥ずかしくなるばかりだ。


ただし、本書の論旨からまったく外れてしまうのがサハラ以南のアフリカである。アジアの発展途上国がどの国も差はあれどもGDPを向上させ、食糧生産率を向上させているのに対して、アフリカは今だ政情不安と貧困の真っただ中である。日本はともかく、この地域に対しては何らかの取り組みが必要であろう。

初版2009/03 文藝春秋/ソフトカバー

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