書評<経済成長という病 >
いわゆる昨今の経済危機についての私的分析に類する著書だが、それを景気循環のなかでの”100年に一度の大恐慌”と捉えるのではなく、”経済成長”というイデオロギーの終焉という視点で捉えているのが本書である。それゆえ散文的であり、声高に危機を煽ったり、好況への道を探るものではない。なので個人的な感想を2点ほど記しておく。
まず、マクロな視点。理屈としては人民全体が幸せになれるはずの社会主義を実験した国が崩壊し、そのイデオロギーは後退したのだが、勝利したはずの資本主義も世界全体の不安定化を招いた。”欲望”が市場をコントロールするはずだったが、人間のそれに際限はなく、平衝することなどない。独占あるいは寡占と、それに伴うわずかな勝者と大多数の敗者が生まれるのみである。昨年のリーマン・ショックの種が、共産主義との全面闘争を再び画策し、勝利したレーガン大統領の時代にまかれていたのもまた、皮肉である。
次にミクロな視点。自分の本職は営業マンなわけだが、基本的にやるべきことの1つが「前年実績をクリアすること」である。なぜそれが必須であるのか、実は真剣に説明されたことはない。著者のいう<経済成長という病>は、もっと大きな視点で捉えているものなのだが、ミクロで経済を担う我々が「前年実績」という常識に自問してみることも必要なことなのではないか。
「資本主義はベストではなくベター」とはよく聞く意見である。ならばその先にあるものも、そろそろ探していい時期なのかも知れない。
初版2009/04 講談社/講談社新書
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