書評<「帝国アメリカ」に近すぎた国々ラテンアメリカと日本>
新書にありがちな”タイトルに偽りあり”で、本題は”ラテンアメリカ各国の経済改革の現状と将来”というところであろう。
近年、ラテンアメリカではいわゆる”社会主義復古”ともいえるような政権が続々と誕生し、公然と「帝国アメリカ」に敵対する国家も現れている。果たしてこれはいかなる歴史のもとに生まれてきたのか?それを問うのが本書である。
ひとえに”中南米”あるいは”ラテンアメリカ”といっても、その国状は様々だ。だが、大小の差はあれど、地政学的にアメリカの”裏庭”ゆえ、そのイデオロギーや政策に大きく影響を受ける。とくに80年代終盤以降は、ハイパーインフレや国家の財政危機を克服するため、”民営化”を推し進めた。いわゆる”新自由主義”である。鉄道や航空会社、水道や電力といったライフラインに至るまで。だが、日本と大きく異なるのはそれに入札したのは”外資”だったことである。容赦ないリストラで広がる貧富の格差、経済原則だけで進む改革のため、荒廃するインフラ。その反動がベネズエラやボリビアといった国々の”社会主義復古”であろう。本書でラテンアメリカの民営化とその結果を知ると、アメリカに「日本の改革などまだまだ甘い」と言われる所以がよく分かる。奢った言い方だが、同じ「帝国に近すぎた国」とはいえ、ラテンアメリカと日本では比較するに無理があろう。
「太平洋戦争直前、メキシコ油田の原油の買い付けに失敗したことが、帝国海軍を対米決戦に向かわせる一因となった」との史実を、本書と最近のNHKスペシャルの両方から知ることとなった。”不安定の孤”、あるいは中国やインドばかりが日本では重要視されがちだが、ラテンアメリカもまた日本にとって重要な存在であることを再確認する。とはいえ、なかなか個々の経済的な国状まで知ることの少ないので、本書はその入門書となろう。
初版2009/05 扶桑社/扶桑社新書
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