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2009.07.28

書評<世界は分けてもわからない>

現役の生物学者にして、詩的な文章をものにしている著者の最新作。書き下ろしではない本書は実質、2部構成になっている。
”第一部”はタイトルの通り、生物に関する”境界”に関するエッセイ。我々の視覚認識の不思議さや、食品保存料などの身近な問題。あるいは「脳死」という死の境目を決めて臓器移植を行うなら、「誕生」についても人は境目を決めて何らかの”医療行為”に走るかもしれない、という深遠な警告。話題のES細胞に関しても、その可能性とそれを実現する困難さを著者ならではの表現で説明する。
”第二部”は世界最高峰の大学で起きた、実験結果のねつ造という一大スキャンダルを取り扱っている。その専門性ゆえ文章自体はやや難解だが、スマートな若き天才の登場と活躍、一夜にして画期的な論文が瓦解する過程は、読んでいると止まらなくなる。スキャンダルの話なので不謹慎だが、その”ドキドキ感”はたまらない。
一冊の本としてはやや散文的だが、別テーマの二冊分と考えればお得だろう。

初版2009/07 講談社/講談社新書

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