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2009.07.19

書評<ベスト&ブライテスト>

ベスト&ブライテスト〈中〉ベトナムに沈む星条旗
ベスト&ブライテスト〈下〉アメリカが目覚めた日

1960年代初頭、アメリカ指導部はかのJ.F.ケネディをはじめとした聡明な”エスタブリッシュメント”で構成されていた。にも関わらず、アメリカはベトナム戦争の泥沼にはまり込んでいく。彼らは何を見誤り、どこで選択を間違ったのか。当時の政府中枢部にいた人々の人物像を徹底的に掘り下げていくことにより、それを分析していく傑作ノンフィクションである。

ノンフィクションの紹介本にどの選者も必ず挙げていたのが本書であったので、読んでみた。読後の第一印象は「歴史は繰り返す」というシンプルなものである。イラク戦争の泥沼にはまっていくブッシュ政権を、ベトナム戦争となぞらえるアメリカ人が多くいたが、本書を読めばその理由が理解できる。フセイン政権打倒後のゴタゴタではなく、むしろフセイン政権打倒に向かう決断の方に酷似しているのである。アメリカン・デモクラシーを至高のものとし、現地の人々をある種”見下している”傲慢”は当時とまったく変わらない。また、指導部が強気にならざるをえない心理的背景にあったのが”反共主義”ならば、ブッシュ政権当時は”テロとの戦い”であり、いずれもアメリカの一方的な”危うい大義”である。また戦争を”ホー・チ・ミンとの対決”や”フセイン政権打倒”といった単純な構図に落とし込んでしまったことも共通している。

考えなけばならないのは「政治の過剰な介入が余計な犠牲と敗北を招いた」というミリオタの側から見た定説と兼ね合いであろう。本書の印象では、軍幹部の見立ての誤りが政権を戦争に引きずり込んだ一因であり、また軍が望んだ北爆のエスカレーションも北ベトナムを追い詰めることはなかった、とされている。そもそも戦争の決着点が”ヨーロッパ解放”とか”独裁政権打倒”といった軍事目的ではなく、”政治的な妥協”になのだから”政治の介入”があってしかるべきだったとの分析だ。この見方が正しいかどうかはもはや個人のイデオロギーに関わることにもなるが、航空攻撃や特殊部隊の”暗躍”の効果も含めて、戦争を政治・軍事の両面から常に考えていかなければならないと感じる。

原著初版/1972  朝日新聞社/朝日文庫

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