書評<ダーウィンが信じた道>
進化論を提唱し、世界に知られることとなったチャールズ・ダーウィン。著者いわく”クールなイメージ”のダーウィンだが、その根幹には奴隷制を忌み嫌う博愛主義があった。本書は現在まで残されているダーウィンの手紙やメモなど膨大な資料をもとに、ダーウィンが生きた19世紀の奴隷制の是非を巡る論争や、人類の起源を巡る攻防を描き、ダーウィンの実像にせまる大作である。
ダーウィンが生きた19世紀中盤のヨーロッパあるいはアメリカは、複雑な時代であった。中世の絶対的なキリスト教的価値観が崩れ始め科学的思考・合理的思考が台頭する。また各地の市民革命などの影響で人権なる思想が浸透していく。そうしたなかで、西欧を二分する論争の一つが奴隷制の撤廃であった。
こうした状況を背景に、ダーウィンが家族や周辺人物にどのような影響を受けながら育ち、また進化論に繋がる思想を育んでいくかが描かれていく。一貫しているのは、奴隷制への嫌悪であった。人類が単一紀元であり、肌の色や頭蓋骨の差など「種」を分けるものではないことを証明するために、ダーウィンは研究を積み重ねていく。
正直言って、キリスト教が浸透しているわけでもなく、人種差別が浸透しているわけでもない(国籍や民族差別はともかく、黒人が別の生物とかは思わない)日本人には理解しにくい面もあるが、そこは西欧の歴史の勉強でもある。
しかしそれでも、ダーウィンの進化論の価値は、ハトやもろもろの動物・植物を用いて、実験や証拠による検証可能な科学として提唱したところにあると、個人的には思う。例え”博愛主義”であろうとも、それが主観的なイデオロギーならば、根拠のない宗教的な価値観や疑似科学と同一だ。科学だからこそ、「種の起源」発表後の100年以上の研究や、最新の遺伝子工学や分子生物学の登場にも耐え、今にいたるまでその価値がうすれていないのだ。本書が”ダーウィンの信じた道”を強調すればするほど、そう思わざるをえないのである。
初版2009/06 日本放送出版協会/ハードカバー
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