書評<アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風>
<戦闘妖精・雪風>シリーズ10年ぶりの新作。以下、ネタバレありで感想を。
物語的には第二作である<グッド・ラック>の続編であり、文体も同じ。なので、印象的な飛行シーンや戦闘シーンもまったくなし。主人公はじめとした心象風景の描写が続く。
基本テーマは<リアルとは、自己とは何か?>である。人間にとってのリアル、敵であるジャムにとってのリアル、そして知性を獲得した<雪風>にとってのリアル。時間軸や人間の存在そのものがバラバラに分散し、混乱するフェアリー空軍特殊戦の面々だが、やがて自分たちが置かれている状況を理解し、ジャムや反乱分子の意図を読み解いていく。
”ジャムなる異星人は人間ではなく、地球機械に対して戦争を仕掛けている”というセンス・オブ・ワンダーをさらに拡げ、”人間を、知性機械である雪風が自身が知りえない感覚のセンサーとして送り込む”あるいは”機械が人間の思考に欺瞞・妨害をかけてくる”という展開はSFとしては見事というしかない。問題は読者がそこに辿りつくまで、登場人物たちと同じように思索的・哲学的思考を巡らさねばならないこと。初期の作品と違って、著者の作品は確実に読者を選ぶようになっていると思う。
ちなみに、物語はまったくというほど先には進まない。まあ、もともとが短編小説だし、決着をつけるつもりは著者もないんだろうな。
初版2009/07 早川書房/ハードカバー
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