書評<麻薬とは何か―「禁断の果実」五千年史>
まだ文明が発展する以前から、人類は麻薬を様々な形で使用してきた。そして大航海時代以来、人類が大規模な移動を始めるようになると、それが世界中に広がっていく。アヘン、ヘロイン、コカイン、大麻、LSD・・・・これらは当初は薬品として用いられ、やがて中毒性が明らかになって違法となる歴史の繰り返しである。これらにはどんな文化的背景は潜んでいるのか?肯定や否定ではなく、麻薬が人類の歴史にどのように関わってきたかを検証する。
人類全体の悪徳とされながら、今もってその蔓延を防ぐことのできていない麻薬。それに対する抵抗感は、個人の生い立ちやおかれる環境によって千差万別であろう。個人的には子供のころに見た80年代のハリウッドの刑事映画に強く影響を受け(麻薬ディーラーは必ず死に至る)、忌避感が強い。だが、そのハリウッド映画を例に見ても、ここ最近は麻薬との戦いは大きな挫折をもって描かれる。その中毒性や身体への影響が喧伝されるのにも関わらず、人々がそれに手を出してしまうのはなぜか?本書で語られる麻薬と人類に関わる長い歴史をみると、その一端が見えてくるような気がする。知恵を持つ動物として、身体あるいは精神的な限界を乗り越えようとするときに、比較的安易にそれを実現できる気にさせる麻薬たち。そこまで限界を追求する気にはならない自分の怠惰さが、むしろ今まで自分を麻薬から遠ざけてきたのかもしれない。問答無用に否定的なものとして捉えるのではなく、麻薬と人間、もしくは個人の関係を考えるきっかけとなる書である。
初版2009/05 新潮社/新潮社選書
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