書評<アメリカはなぜイスラエルを偏愛するのか>
周囲を敵国に囲まれたイスラエルは人口・国土的には小国であり、とてもではないが世界でも有数の最新鋭装備を揃える軍事予算は”本来は”ないはずである。それが可能なのはアメリカの援助のおかげであり、民生・軍事含めて膨大な援助が国家予算に計上されている。それはアメリカの政権が共和党になっても、民主党になっても変わることはない。本書はその回答を、議会に跋扈するユダヤ・ロビーの存在に求める。よって、アメリカ国民のイスラエルに対する”偏愛”というような感情的な解説ではなく、シオニズムの元に動く圧力団体の解説書といったところが正確であろう。
さほどユダヤ系民族の苦難の歴史と直接関係ない日本でも、、彼らに対する受け止め方は様々だ。本屋の棚を見れば「ユダヤに見習う金持ちになる方法」という経済論から「世界を支配しているのはユダヤ民族だ」という陰謀論までなんでもござれである。本書はそうした裏付けのない”イメージ”ではなく、ユダヤ・ロビーという圧力団体というリアルな存在に、ユダヤの力を見出す。少しでもアラブ側に同情する議員がいれば、選挙資金というパワーを使って追い落としをかける。本書はそれらを詳細に解説し、またキリスト教右派との連携など、政権にまで大きな影響をおよぼすことができる理由を追求する。それは”財界の圧力”といった漠然としたものではなく、どこまでも生臭い議会工作であることを本書は指摘する。
ただ、その議会工作も巨大な資金なしではできない。自分的には、世界に数いる裕福層の中でユダヤ系が政治につぎ込む額が格段に大きいだけの話だと思うんだけど、やっぱり陰謀論はなくならないんだろうなあ。
初版2009/11 新潮社/新潮文庫
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