書評<地球移動作戦>
ときは2038年、ピアノ・ドライブと呼ばれるタキオン推進の発明と普及により、人類は太陽系を手中に収めようとしていた。だが太陽系辺境の観測プロジェクトによる有人探査により、地球に厄災を謎の新天体が発見された。地球を壊滅的な打撃から救うため、奇想天外な計画が発動される。果たして、人類は厄災を乗り越えることができるか?
過去のSF作品をリスペクトしながら、最新の物理学や宇宙理論を用いてブラッシュアップした長編SF。ストーリーの軸は2つある。1つめは前記のタキオン・ドライブを用いた”地球移動大作戦”。こちらはハリウッド映画によく見られる破滅的な映像を理論的に文章に表現するとどうなるか、著者の作家たるところのみせどころだ。2つめはACOMと呼ばれる人工知能発達させたヴァーチャルアシスタントと人間社会との関係だ。常に論理的に行動する人工知能はロボット三原則を越え、驚くべき行動を起こすことが描かれる。
2つの軸とも、過去作品にみられる「現実と仮想現実は等価」という著者のスタンスがやや変わりつつあるのかな、と感じられるのが興味深い。眼前に展開されるカタストロフィー、論理回路では理解できない人間どおしの関係。これらが仮想現実を超える情動を起こすことを著者は示唆する。「説教くさいSF」の著者の作品がどこに向かうのか、興味深い。
初版2009/10 早川書房/ハヤカワJコレクション
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