書評<有坂銃>
日本の銃火器開発の歴史の中で、海外にもその名を知られる有坂茂章。有名な三十八年式歩兵銃の原型となる三十年式歩兵銃を開発し、またその時代の野砲などの開発でも、その中心となった人物である。本書は彼と彼の開発した銃火器を通して、明治から日露戦争にかけても歴史の一端を垣間見ることができる。
陸上兵器体系の基礎となるライフルと野砲は、意外なほど高度なテクノロジーに支えられている。先進国のコピーをすればいいというものではない。冶金学や火薬学などを適切に用いなければ、姿かたちは同じでも、ただのガラクタである。本書の主役である有坂は、海外からの情報を基本に、自らのアイデアを取り入れつつ、日露戦争はもちろん、太平洋戦争まで使われるライフルや野砲を設計した。平時から試行錯誤を繰り返し、いざ戦時ともなれば、現場からの声に早急に答える技術開発に没頭する。わずかな改良が傑作兵器となり、わずかな齟齬が現場で不評を招く。そこに、欧米と比べれば開発途上であった2次大戦以前の日本の技術力の限界と、日本人の兵器に対する態度が見え隠れする。著者による「とにかく”見栄”を要求する姿勢」という分析は概ね正しく、また現代まで続いていると思う。「存在することではなく、使えることが大事」という某大臣のセリフは、その組織だけではなく、ライフル一挺から適用されるものである。
初版2009/10 光人社/光人社文庫
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