書評<世界犯罪機構>
旧ユーゴスラビア紛争の取材をとおして、そこにはびこる犯罪組織の暗躍を深く知ることになった著者が、バルカン半島を出発点に、世界各地の犯罪組織を取材し、その組織の実態と国際的なつながりを明かしていくノンフィクション。
コロンビアの麻薬カルテルの例を出すまでもなく、小国の国家予算をものともしない資産を持った犯罪組織はこれまでもあったし、その犯罪行為が国境を越えることも当たり前であった。だが、本書は犯罪組織が越境を超え、世界を網の目のように覆っている姿を浮かび上がらせる。それはやはり、ソ連の崩壊の影響が大きい。共産主義陣営の急速な体制崩壊とその後の脆弱な国家体制は、法などものともせず金儲けに走る犯罪組織を生み出した。世界の半分を覆うに過ぎなかった犯罪組織が、もう半分ともつながることになったのである。それに、世界経済のグローバル化が拍車をかける。カネのサービスのダイナミックな動き、際限なく拡大し続ける貧富の差、そういった諸々の社会問題が、ダイレクトに犯罪組織の拡大につながっている。違法薬物の販売や人身売買を中心として、各国の犯罪組織が繋がりを強めている実態を本書は描き出している。
新しい犯罪も生まれている。迷惑メールのフォルダをたまに除くと、ブラジルなどいわゆるBRICsと呼ばれる国からのメールが数多くある。これらサーバー犯罪にも、組織犯罪は大きく関わる。
現在のグローバル企業のごとく、拡大と国際的提携を続けていく犯罪組織。市場原理主義の負の一面である彼らの暗躍は、現在の世界情勢が激変しない限りは続くだろう。ゆるやかでもいい、社会構造の変化を望まずにはいられない。
初版2009/11 光文社/ハードカバー
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