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2010.03.17

書評<「感情」の地政学>

いわゆる地政学とは、その国のおかれた地理的状況を把握し、その状況が政治や外交、あるいは軍事にどのような影響をもたらしているのかを分析する学問だ。本書の著者は大胆に「感情」をもって地政学的分析を行うことにより、現在の国際情勢を分析する。高い経済成長率を維持するインドと中国をはじめとするアジアは「希望」。テロに揺れるイスラム世界は「屈辱」。そしてそれに「怖れ」を感じるヨーロッパとアメリカ。地域を覆う感情が国際情勢にいかに影響をおよぼしているのかを解説する。

本書の3つのキーワードである「希望」「屈辱」「怖れ」は、いずれも人々の「自信」の持ち方に起因する。豊かな生活への希望。世界の文明の中心から滑り落ちた屈辱。世界の中心から滑り落ちるのではないかという怖れ。そういった国民感情が世界を動かすという著者の主題は、個人的には非常に納得いくものであった。
例えばイラク戦争開戦時、反戦派のアメリカの人たちは「政府(あるいは一部のエリート層)が石油獲得のためにイラクに侵攻する」ことに反対していたわけだが(例えばマイケル・ムーア)、個人的にはそこはかとなく違和感があった。経済的理由よりも、ネオコンと呼ばれる人たちが「アメリカ的市場主義・民主主義こそ至上」として、傲慢なまでの自信のもとに戦争を仕掛けたという、本書でいう「感情」的理由の方が割合としては大きいと考えていたわけだが、本書はその裏づけを与えてくれている。
いずれにしろ、経済や軍事バランスだけが要因ではない、現在の複雑な国際関係をよく説明しているといえる。表題から予想されるほどカタい文章でもないので、お奨めです。

初版2010/03 早川書房/ハードカバー

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