書評<微睡みのセフィロト>
従来の人類である感覚者(サード)と超次元能力を持つ(フォース)の戦争から17年。世界政府準備委員会の要人が300億個の立方体に”混断”される事件が起こる。世界連邦保安機構の捜査官パットは、フォースである少女、ラファエルとともに捜査を開始する。
ラノベ作家の一歩先へ向かっている著者のデビュー作の復刊。後の傑作「マルドゥック・スクランブル」へ繋がる設定も見られるが、「マルドゥック・スクランブル」ほど退廃的な雰囲気は少ない。むしろ正統派のラノベというか、それなりに自己の解放と勧善懲悪の物語である。破滅的な戦争後ゆえ、元兵士である自己に施された思考と能力の制限との葛藤。世界を不安定化しようとする勢力との戦い。充分にカタルシスが得られる物語だ。
超能力少女とノーマルな捜査官のコンビという組み合わせなら、当然のごとく主人公は少女であるはずだが、本作の主人公は捜査官パットであり、その点で、本作はむしろ初出の徳間デュアル文庫ではなく、”ラノベからそのままSFへ向かってしまったオトナ”向けのハヤカワ文庫に向いていたと思う。著者はシュピーゲル・シリーズを最後のラノベとするらしいが、本書のような物語も紡ぎ続けてほしい。
初版2010/03 早川書房/ハヤカワ文庫JA
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