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書評<オルタード・カーボン>

時は27世紀。人類は国連の旗のもと、他の星域に拡散していた。人々の意識と記憶は小さなメモリー・スタックに収納され、人造あるいは他人の肉体に乗り移ることでほぼ永遠の生命を手に入れていた。
物語は主人公、タケシ・コヴァッチが地球のベイ・シティと呼ばれる都市にダウンロードされるところから始まる。植民星<ハーランズ・ワールド>出身で、国連の治安組織の中で汚れ仕事を引き受ける特殊部隊<エンヴォイ>所属だったコヴァッチは170年の保管刑で服役中だった。それを地球の富豪の自殺に纏わる事件の調査のために叩き起こされたのだ。コヴァッチは様々な思惑が錯綜する事件の捜査を開始する。

いかにも評価が高そうなオビに魅かれて買ってみた。一言でいうと、非常にバランスのいいSFだ。舞台設定は27世紀だが、物語の前半はそれが強調されることもなく、ハードボイルドな感じで話は進む。元特殊部隊のタフの男が知らない土地でトラブルに巻き込まれながらも、確信に近づいていく探偵物語。だがだんだんと、SFのカラーが濃くなってくる。技術的に永遠の命を得ようと、人間の精神は何百年も生きることに耐えるのはなかなか難しいこと。恋人が他人の心を持って現れたときの戸惑い。最後はちゃんとカタルシスが得られる。しっかりと世界観設定をしながらも、それは小道具でしかなく、メインはあくまでハードボイルド。自意識過剰かも知れないが、主人公の名前も含めて日本アニメの影響を強く感じるSFである。

初版2010/03(文庫版)  アスペクト/文庫

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書評<生命 最初の30年億年>

生命史や進化論に興味を持つ人でも、たいていその興味の先はカンブリア紀、つまり三葉虫以後の生物の歴史ではなかろうか?しかしながら、生命の歴史はむしろその発生から多細胞生物にいきつくまで、”最初の30億年”の方が圧倒的に長い。その30億年については専門的な研究もなかなか進んでいないが、微細な化石の発掘などにより、その謎が明らかになりつつある。本書では世界中をカンブリア紀以前の生命の痕跡を発掘してまわっている著者が、現在明らかになっている生命の最初の30億年の歴史を組み立てる。

本書は生命史の本というよりは、むしろ地学の本であると思う。20億年とか15億年前とかいうオーダーの生命の痕跡となると、その地層そのものを探すことがもはや冒険であり、化石というよりも岩石の分析がメインとなるからだ。岩石の組成にいかに生命の跡を見つけることができるか?そこに、地球の歴史において何が起こったかを見出すか?科学的分析を積み重ね、事実を推測していく。
最初期のバクテリアがどのように生まれ、どのように今の細胞構造を成すようになったか。そのバクテリアが世界に伝播していくことにより、どのように地球環境が変化していったか?謎はまだ多いが、地球環境の形成の基本的歴史が見えてくる。生命の最初期の研究の最前線を知ることができる良書である。

初版2005/07  紀伊國屋書店/ハードカバー

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書評<水ビジネス 110兆円水市場の攻防>


我々日本人は、さほど水について不足を感じることはないが、世界は恒常的に水不足であり、そのために紛争が起きるほどである。イメージしやすいアフリカはもちろんのこと、アメリカなど農業大国においても、今後の灌漑農業の行方が怪しくなるほどの水不足だ。
それゆえに、そこには巨額のビジネスが絡む。フランスやイギリスでは企業が上下水道のインフラを維持し、そのノウハウを持って途上国の上下水道の管理業務を請け負っている。海水の淡水化プラントも技術競争が激しい。本書はそういった水を巡る現在を読み解いている。

本書の基本路線としては、国内の水ビジネスを民間への委託によって効率化をはかり、そのノウハウと先端技術企業の持つ膜浸透技術などを用いて、世界の水ビジネスに乗り出そう、というものである。
しかしながら、この水ビジネスの民営化には別の側面がある。例えば、前述したようにグローバル企業に上下水道インフラの運営を委託した南米のとある国では、一般的な階層の国民にも払うのが難しいほど料金が高騰。料金徴収とインフラ整備がとても割に合わない地区では、水道事業そのものを停止。散々たるものである。企業はあくまで営利を追求するものであり、まして本国以外では社会的責任もさほど気にすることもない。民営化のこうした負の側面を持つ事業を臆面もなく続けられるほど、日本人がドライでいられるか?自分は否であると思う。
むしろ民営化の負の側面を見つめ直す時代ではないのか、と思う2010年現在だと思うのだが。

初版2009/11 角川書店/角川ワンテーマ新書

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書評<コンテナ物語>

1950年代前半まで、貨物船での輸送はバラ積み貨物が大勢を占めていた。そのため、船倉への詰め込みは沖仲士と呼ばれる港湾労働者に頼っており、その人件費や荷捌きのための倉庫賃貸料など、海運には莫大な費用が掛かっていた。
それが劇的に変化したのが、コンテナ輸送の登場である。工場で製品を詰め込み、専用船で海を渡り、仕向け地まで開封することなく製品の移動を可能としたコンテナ輸送がなければ、現在のグローバルな物流体制は実現できなかったであろう。
港湾労働者をまったく必要とせず、巨大なクレーンを必要とするコンテナ輸送の導入は、世界の港町そのものの姿を変える力があり、それゆえに大きな抵抗があった。そこに風穴を開けたのがマルコム・マクリーンであった。元トラック業者であり、海運業界のしがらみに捉われない彼は、コンテナ輸送を武器に風穴を開け、以後の海運業界の姿を変えることとなる。本書はマクリーンを中心としたコンテナ輸送の革命を詳細に記述したノンフィクションである。

出版社が日経BP社ということで、革命を成し遂げた経営者と、現在の物流体制がいかに成し遂げられたかを中心に読み解くべきであろうが、印象に残ったのは海運業の経営がいかに難しいかである。貨物船建造と維持の莫大な費用ゆえ、石油価格の変動や景気の循環により、名門海運会社が簡単に破綻に追い込まれる。本書の主役であるマクリーンでさえ、高速コンテナ船の失敗や世界一周航路の失敗があり、最終的には破綻に追い込まれているのだ。アイデアを即刻実施するには船舶の建造は時間が掛かり過ぎ、机上で素晴らしい航路を考えても、実際には天候など不確定要素が多い。そこを乗り越えたのがコンテナ輸送、ということであろう。
ともあれ、貨物船・物流・港など、様々な分野の歴史と現在が読み解ける、素晴らしいノンフィクションである。


初版2007/11 日経BP社/ハードカバー

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陸自滝ヶ原駐屯地記念行事に行ってきた

札幌から静岡に転勤してきましたが、相変わらず続きます、駐屯地訪問記。
東部方面隊はじめての駐屯地祭は滝ヶ原駐屯地。静岡県の陸自駐屯地は富士山の裾野に集中しています。大雑把にいうと、陸自の教育部隊のメッカ。滝ヶ原駐屯地も普通科教導連隊や部隊訓練評価隊、つまり訓練時の対抗部隊が駐屯しています。
なので装備品展示もちょっとフツーと違う。
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マインローラーを装備する他、いろいろと装備品が異なる74式戦車。レッドスターから分かるとおり、当然T-72を模したものです。
そんでもって滝ヶ原駐屯地の隣はアメリカ軍のキャンプ富士。なので特別ゲストも。
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地雷やIED(即席爆破装置)に対抗するために採用されたMRAPと呼ばれる兵員輸送車。ゴツいです。
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陸自の軽装甲機動車など問題にならない厚さの防弾ガラスに、ウレタンの防弾ライナーが装備された後部ドア。底部を覗くと、兵員室がV字なのは有名な話ですが、エンジンとトランスミッションもV字型の鋼板で守られてるんですね。さすがに防御は徹底してます。
その前には最新の小火器が展示。
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アンチマテリアルライフルのバレットにM4A1。12.7mmを使うバレット、少し持たせてもらいましたが、1秒たりとも立射の姿勢ができない。やはりマンガと現実は違う。M4はフレームから標準品ではない大改造バージョン。特殊部隊マニアは大喜びでしょうな。
そして「自衛隊もめったに見ることがない最新装備」と司令がおっしゃられたのがコレ。
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遠隔で爆弾処理をするロボット、タロン。さぞかしトップシークレットなのかと思いきゃ。
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危険な任務を少年兵に指導する将校、ではなくてリモコンで遊ばせてくれてます。さすがフレンドリー・アーミー。
北海道では見ることのできない装備にやや興奮しながら、訓練展示会会場へ。
北海道でもお馴染みだったヒゲの佐藤議員や、不倫で有名な議員さんのスピーチの後、観閲行進。
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それでですね、89式歩兵戦闘車のアップの撮影に集中していると、何かグレーの車両が視界に入る。カメラのファインダーから目を離すと、都市迷彩をまとった89式が!
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あわててシャッターを切った写真がコレ。昨年は96式装輪装甲車のデジタル迷彩が登場したそうですが、今年はやや荒い出来。長玉を持っているからといって、アップに集中しちゃダメだという見本ですね。
もう出てこないかな、と思ってるうちに、訓練展示。建物にいるテロリストを偵察する都市型戦闘。まずはOH-1の偵察飛行。
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バイクによる偵察やFH70による援護射撃といった定番メニューの後、戦闘車両が突撃。
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もう出てこないかと思った都市型迷彩の89式が再登場。まともな写真が撮れてよかった。
そして最後は負傷者の救出。
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最新装備が揃う教導隊らしく、担架ではなくバックボードなる保護装備で負傷者を後送。
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そのバックボードをホイストでHU-1が吊り上げて状況終了。

本州の陸自駐屯地祭に初めて来たのですが、隊員の家族やOBに混じって、どう考えてもスナックのおねーさんがハイヒールでコツコツ歩いてたりする風景を見て、駐屯地開放は全国どこも変わらないとつくづく思いました。しかし、やはり違うことも。
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当たり前ですが、地元の名産品は土地土地で変わります。顔見知りに会わないことと同時に、ここが北海道でないことを思い出しました。それにしても、模擬店の若い隊員さん、袋に詰め過ぎ(笑)。

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書評<「グリーン・ミリテク」が日本を生き返らせる! >

地球規模の気候変動の危機が叫ばれる昨今、アメリカ4軍も省エネや環境対応と無縁といられず、バイオ燃料を使用して戦闘機を飛ばす試験など実施している。とはいえ、これは建前。不安定な中東情勢に価格が左右される石油に頼らずに任務遂行ができるように、というのが本音であろう。
他方、アメリカよりもよほど中東の石油に依存している日本だが、そうした事態への対応は聞こえてこない。イランが核開発に突っ走り、ますますキナ臭くなっている昨今、著者はこれに気候変動が重なれば、中東の諸国家は騒乱に巻き込まれ、ガソリンの価格がリッターあたり1万円にもなろうと予測する。著者はまずアメリカ4軍の燃料事情を解説し、そこに著者が見立てる世界情勢を重ねあわせ、日本がとるべき安全保障策はどんなものかを提言する。

兵頭二十八氏が著者ということで、読む価値なしと考えるミリオタの方も多いと思う。その極端な中国警戒論はミリオタでさえ(ミリオタだからこそ)、ややトンデモ理論に思える。そこらへんの情報と著者の推測を取捨選択すれば、本書から有用な情報や理論を引き出せると思う。抽象的な”エコ”を連発するよりも、軍事面を含めて気候変動と石油価格の高騰に備えることは有用だし、欧米はキレイごとを言いながらも北極海航路の開設準備など、それに備えつつある。そろそろ自衛隊も、気候変動や石油価格高騰に備える戦略を考えなければなるまい。

初版/2010/03 メトロポリタンプレス/ソフトカバー

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書評<「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理>


数年前、「マネーボール」という本がベストセラーとなった。メジャーリーグ・ベースボールにおいて膨大に蓄積されるデータを分析し、それを選手のドラフトやトレードに活用してチームを構成し、プレーにもデータ分析を生かすことにより、低予算で最大限の成績を上げることに成功したプロ・チームを描いたノンフィクションである。
だが、それをサッカーに全面的に応用できないと思っていた。サッカーにデータなるものは少ない。例えばテレビ中継中に示されるのはフリーキックやシュート数、親切なとこでボール支配率くらいなもの。だが、シュートといっても見る人によって判断が違うし、ボール支配率が直接勝敗に関係ないこともしばしばである。
だが、時代が変わったようだ。本書は主にデータ解析会社やネットに蓄積されたデータをもとに、サッカーの”常識”を覆す。PKは本当に不公平なルールなのか?オーナーたちはなぜ移籍市場で失敗するのか?といったクラブチームに関わるものから、サポーターの行動に至るまで、サッカーにまつわる常識を、統計学によって覆す。

ただ、本書は主にイングランド向けの本であり、タイトルに反して”ジャパン”に関する章は先頭の2章のみであり、構成としてはやや不自然だ。そこを割り引いても、サッカーの意外な事実を知ることができる。停滞する日本代表の唯一シンプルな解決方法も。

初版2010/03 日本放送出版協会/ハードカバー

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F-104G Completed

ハセガワ1/72ロッキードF-104G”NASA Officers”、完成しました。
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ロッキードF-104は”最後の有人戦闘機”と宣伝された戦闘機です。鉛筆のような胴体にごく薄い主翼から分かるように、超音速性能を第一に狙った機体であり、デラックスさを好むアメリカ空軍では冷遇されましたが、空自やNATO各国では長期間に渡って第一線で任務に就きました。
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余剰推力を生かした高空・高速性能の高さからNASAの随伴・追跡機(チェイサー)としても採用されました。今回はRocketeerDecalのデカールを使って、60年代~70年代のチェイサーを再現しています。
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キットはファインスケールの金属製ピトー管を使った以外はストレート組み。普段はサーフェイサーをあまり使いませんが、ピカピカ仕上げなので今回は全面に吹きつけています。
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塗装はまずクレオスのクールホワイトを全面に吹きつけてから、スカイブルー、コバルトブルーの順でマスキングしながらエアブラシ。サイドから見て直線になるように配色されており、マスキングは実際は曲線主体。ヘタクソな自分は何度か吹き直しましたが、それでもこころなしか捩れている気が(泣)。デカールを貼る前にクリアーを重ねて吹き、さらにデカールを貼った後にまたクリアーを重ね吹きしてピカピカ仕上げを狙いました。が、狙いよりややスミが入りすぎたきらいも。なかなかバランスが難しい。
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デカールは文句なしの上質なもの。実際、ニスのカットは一切していません。

ここのところ、C-17Aのサンディングで苦労していたので、本当に楽しく製作できました。やはり自分には、優秀なキットをサクサクと作るのが合っているようです。無理をして静岡ホビーショーに変化球を持ち込むよりは、自分が好きなものを作る方が楽しいと思い直すきっかけになりました。なのでC-17Aは少しお休みして、次はあいかわらずのジェット戦闘機でいきます。

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書評<日本サッカーが世界で勝てない本当の理由>

1993年のJリーグ開幕あたりから2002年の自国開催のワールドカップまで、日本のサッカーは急激に成長した。だが、そこをピークとして停滞または緩やかな下降線を辿っているように見える。老舗サイトであるサポティスタの管理人さんが、ネットという新しいメディアあるいはサポーターという、いわば”周辺の目線”で、日本のサッカー界の停滞の理由を解説する。

本書を読んでいて、不覚にも涙ぐんでしまった。2ちゃんねるでトルシエ監督時代の日本代表について論じた「ワーワーサッカー」のくだりの部分である。2002年のあのころ、日本代表を論じることがなんと楽しかったことか。トルシエの在任期間は4年と長かったが、飽くことなくネタを提供してくれ、選手たちも個性的だった。それが今は、ネガティブなコメントしかネット上には踊らない。これだけでも、日本代表のサッカーが停滞していることが分かる。本書にはその解決のヒントがある。ガンはやはり日本サッカー協会か。彼らの意識が内向きから外向きに変わらない限り、なかなか現状打破は難しいと思う。とにもかくにも、日本代表には危機感というものを持って欲しい。スポンサーはいつまでもついてきてくれるものではないのだ。

2010/03   毎日コミュニケーションズ/マイコミ新書

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