書評<去年はいい年になるだろう>
2001年9月11日、24世紀の未来から<ガーディアン>と名乗るアンドロイドたちが突如、出現した。圧倒的な技術力で世界の軍事力を無力化した彼らの目的は、「人類を不幸から守ること」であった。犯罪や事故には未然に介入し、それを防ぐ。地震などの天災はそれを通告し、避難に協力する。
SF作家の山本弘は<ガーディアン>の少女の訪問を受け、彼らの目的と、未来の自分からのメッセージを受け取る。当初は<ガーディアン>に肯定的だった彼も、やがて捩れていく人生に翻弄されるようになる。それは人類全体も同様であった。
本のオビに「SF私小説」とあるが、それが本書を一言で表現していると思う。著者自身の家族や人間関係がほぼ実名で登場し、自身がSF的状況に置かれたときにどのような感情を抱き、どのような行動をとるかが描かれる。もともと、著者の作品は自身の価値観が如実に現れているものが多い。例えば、論理的な結論ではなく感情で動く人間の愚かしさや、物理法則を無視して”自分理論”を組み立てる”トンデモさん”への否定的な思いだ。だが、本作品では自分も愚かな人類の一員であり、”トンデモさん”と紙一重であることを内省する。まさに私小説だ。そしてそれが、SF的な状況を読者の身近に引き寄せる効果を上げている。
もちろん、SF的要素も手は抜かれてない。徐々に悪化していく世界情勢とラストのどんでん返しはなかなかのもの。エンターテイメントの要素もしっかりした、バランスのよい作品だ。
2010/02 PHP研究所/ハードカバー
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